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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第72回 第五章・十
 半日程かけた修練で、竜聖はどうにか棒の扱いに慣れたようだ。試しに、近くの木に向けて棒を突き出しながら「呪」を叫ぶ。
「突(とつ)!」
 棒の先端にある黒い球が、一瞬にして槍のように先端を尖らせた。そしてそのまま木に突き刺さる。
 いったん抜き取ると、竜聖は大きく振りかぶって振り下ろしながら、次なる呪を唱えた。
「斬(ざん)!」
 槍の穂先のように変形していた先端は、まるで鋳型に流し込まれるかのように、スムーズに刀のような刃に変形した。そのまま振り下ろされた刃は、太さが三十センチはあろうかという木の幹を、まるで蝋細工でも切るかのように易々と切断した。
 枝が嵐にあったかのような音を立て、地響きすら起こしそうな轟音とともに、木は切り倒される。
 直後、悠姫の声がした。
「すごいじゃない、竜聖! あなた、神仙の素質があるわよ」
 お世辞ではなく、本心からの言葉のようだ。
「その武具を、こんな短時間でそこまで使いこなせる人間なんて、そうそういないわ。ましてや竜聖は武術の心得もないし、仙道の修行もしたことないんでしょ?」
 頷きながら、竜聖は頭を掻いた。純粋に照れくさいのだ。
「ねえ、竜聖」
 悠姫が改まったように、口を開いた。心なしか、彼女の頬が紅いように見える。
「今回のことが無事に片づいたら、私たちの神仙界に来る気はない? あなただったら、成道(じょうどう)、つまり神仙として完成するのも、夢ではないと思うの。それに……」
 何故か口ごもる悠姫を見て、竜聖の胸に熱いものが込み上げてくる。
 この一件が無事に片づけば、彼女はもとの世界へと帰るだろう。だが、そこでの彼女の立場は、これまでにも増して辛いものになるはずだ。それだけではない。今回のことを片づける、ということは、悠姫にとって最愛の父を手にかけるということ。竜聖にはそれが痛い程わかる。だからこそ、彼女を支えようと決めたのだ。そしてそれは兵摩との約束でもあった。
 竜聖が何か応えようと口を開きかけたその時。
「たいへんなことになりました!」
 息せき切って兵摩が駆けてきた。
 ただごとではない様子に、一瞬にして緊張が走る。
「どうしたの!?」
 悠姫の問いかけに、兵摩が肩で息をしながら言った。
「千岳大帝が、動き出しました」
 静かな、けれども強烈な一撃が脳天に浴びせられたような、そんな錯覚さえ起きるほど、それは衝撃だった。
 兵摩は定期的に千岳大帝の様子を確認に行っていた。今も偵察をしてきたのだが、例の結界の辺りから異常な強さの「何か」が噴き上がっているというのだ。
「念のためにしばらく様子を見ていたところ、千岳大帝が姿を現したんです。まだ本調子ではないようでしたが、この間戦った時よりも数段強力な力を得ているようです」
 ついに来てしまった。ろくろく準備も整っていないうちに、来るべき時が来てしまったのだ。
 竜聖は思わず悠姫を見た。
 彼女の顔色にも表情にもさしたる変化はない。だが、一段と張りつめたような空気が彼女の周囲を取り巻いているように思える。
 少しばかりの沈黙の時は何を意味するのか。悠姫は少しだけ息を吐いてから言った。
「準備は万端ではないけど、やるしかないわ。あの男が、この数日でどれほどの力を蓄えたのか、見当もつかない。でも、私たちは引くわけにはいかない。二人とも、私に命を預けるつもりでいて欲しいの」
 そして竜聖と兵摩を見る。二人の男は力強く頷いた。


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