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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第71回 第五章・九
 修行の再開、その進み具合は、中途半端だった。意識を取り戻した竜聖は、皮膚呼吸を実感するには至っていないものの、体霊をうまくコントロール出来るようになっていた。反射がよくなったというのか、思い通りのところへ自在に動くことが出来る。それも一瞬にして、という形容が出来るくらいだ。
 さらにジャンプ力が飛躍的に高まっただけでなく、短時間なら空を飛ぶように空中で動くことさえ出来るようになったのだ。腕力も、ある程度の筋肉的及び関節的苦痛は伴うものの、仙珠の加護があった時と同等かそれ以上のパワーが発揮出来る。だが、悠姫や兵摩の補助呪術を、まったく受け付けなくなっていたのだ。一時的に瞬発力を高める術や拳(こぶし)そのものを鋼鉄のように堅くする術、飛翔時間を長くする術、果ては吐息を超高温にする(早い話が「火炎を吐く」)術など。
 それらの全てから、竜聖は影響を受けなくなっているのだ。
「そう言えば、仙術があまり効かなかったのよね、あの時」
 悠姫が困ったように溜め息をついた通り、彼女たちの仙術攻撃は確かに効かなかった。だが、補助仙術まで効かないのでは都合が悪い。体霊が制御出来るだけでは、戦力にはならないのだ。
 悠姫は試しに竜聖に護符を持たせ、空中にパンチを一発撃たせてみた。竜聖には何がなんだかわからなかったが、悠姫たちは溜め息をついてしまった。「護符から発せられる『呪力』が竜聖の周囲を回るだけで、『形』にならなかった」のだという。
 よくわからない話に、兵摩が簡単な説明をした。
「この呪符は、君の拳圧つまりパンチを繰り出した時の圧力を衝撃波に変えるものです。本来なら呪符の力が働いて、君の拳(こぶし)からは目に見えぬ衝撃波が出るはずだったのですが」
 竜聖は、トレーニングウェアのポケットに入れた呪符を見た。表面に描かれた文字のようなものや記号のようなものなどが、淡い光を浮かべているのが見えた。しかしその光は、呪符の回りで揺らめくだけで、竜聖には何ら影響を及ぼしていないのがわかる。
 そのほか、指先のオーラを剣(つるぎ)に変える呪符と呪(しゅ)や、体内に溜めた「気」を弾丸に変えて発射する呪符及び呪なども試したが、いずれも効果はなかった。
 試行錯誤の末、仙術を施した武器なら使えることがわかった。しかしそれとても万全ではない。竜聖は一介の高校生、武術の達人ではない。しかも帰宅部であり、何か運動や武道系の部活動をしていたわけではない。「戦う」というスキルにおいては、竜聖はまったくの素人だった。
 それでも、何もないよりはまだマシであり、相手が千岳大帝であることを考えれば、まだまだ不十分なのだ。
 竜聖に与えられたのは白い腕甲と、二メートル程の焦げ茶色の棒だった。棒は物干し竿ぐらいの太さで、その先端にはソフトボールより少し大きいくらいの、黒い球がついている。
 腕甲は「明光鎧(めいこうがい)」と呼ばれる鎧の一部だそうだが、仙術のおかげで腕に装着するだけでも防護力は全身に及ぶということだった。ちなみに悠姫が着けているものと、色は違うが同じものだという。
 棒は正式には「蒜頭(さんとう)骨(こつ)朶(だ)」と呼ばれる打撃武器だそうだが、これも仙術が施してあるおかげで、打撃以外にも使えるようになっている。
「いくつかの呪、正式には『神咒(かじり)』というのだけど、これを覚えておいてもらわないと、その武器は相手を叩くだけにしか使えないわ。だから、しっかり覚えてね」
 そう言って悠姫は、竜聖に神咒を教えた。短いものもあったが、中には長いものもあった。戦いの最中(さなか)でこんな長文の神咒が唱えられるか竜聖は疑問を口にしたが、悠姫によれば、力の切り替えは一文字の呪でいいのだという。ただし、その一文字で自在に力を切り替えられるようになるまでには、竜聖自身が神咒を唱えて力の切り替えを「感」じ、武器を「馴染ませ」ないといけないらしい。
「まあ、英単語とか構文を覚えると思えば」
 苦笑いしつつ、竜聖は神咒を復唱した。
 防具と武器、いずれも、悠姫がこちらに来てから調達したものを材料にして、作っておいたものなので、強度には問題があるが、全く使い物にならないわけでもない、という。
 ずいぶんと消極的な言い回しに不安を感じる竜聖だが、それも千岳大帝が相手であればやむを得ないことなのだろう、とも思っている。
 あらためて竜聖は、敵の強大さを思うのであった。


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