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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第70回 第五章・八
 そして再び、海面に目を向ける。どこかのリゾート地、またはプライベートビーチではないかと錯覚するほど、おだやかな風景がそこにはある。
「僕がそこに駆けつけた時、悠姫は君にとりすがって、泣いていました。あんな悠姫は見たことがない。『千岳大帝が謀反(むほん)を起こした』と僕に告げた時でさえ、彼女は気丈に振る舞っていたのに。それなのに……、一人の修行者が意識を失っているという、ただそれだけのことなのに、君が永遠に目を開けないのではないかと、悠姫はそんな風に取り乱していたんです」
 胸が痛むのを、竜聖は押さえられなかった。自分は本当に何をしているのだろうと。
 海を見ていた兵摩は、竜聖に向き直り、静かに、しかし強い意志を込めて言った。
「その時、僕は気づいたんです。残念ながら、僕は彼女の大切な『何か』ではない。それどころか『剣』や『盾』にさえなっていない。でも、竜聖君、君は違う。君は悠姫にとって、なくてはならない存在です。僕では彼女の支えになることは出来ない。しかし君になら出来るんです。いいえ、他の誰でもない、君にしか出来ないことなんです!」
 急に兵摩からのプレッシャーが感じられた。それは不快なものではなかったが、重く竜聖にのしかかってくる。
 兵摩が何を託そうとしているのか、竜聖には痛いほどわかった。だが、自分にそれが務まるのだろうか。
 いや、弱音は許されない。そもそも自分は悠姫を護ると決めたではないか。そしてそれは今、兵摩が竜聖に寄せている期待、願いと同じものなのだ。
 自分で勝手に決めたことなら、人知れず撤回出来るだろう。だが、今ここで兵摩に頷くことは、当事者でない第三者に対する約束でもあるのだ。竜聖はしばらく考えた後、兵摩に言った。
「俺が、必ず彼女を護り、支えます!」
 心底嬉しそうな笑顔を浮かべ、兵摩が頷いた。


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