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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第7回 第一章・六
 竜聖のそんな様子を見て取ったのか、兵摩はバツが悪そうに頭をかいてから、相好を崩した。
「そんなに緊張しないでください。何も、とって喰おうというのではありませんから」
 それまでとはうってかわり、今度は優しいお兄さんのような雰囲気が漂ってきた。
 不快な緊張感や殺意にも似たプレッシャーは跡形もなく消え失せ、あるのはただ、街の中で偶然に年上の青年に声をかけられた、という日常の空気だけである。
 そんな空気感に安堵しながら、竜聖は立ち上がった。
「すみませんでしたね。私たち神仙(しんせん)は普通の人間とは比べものにならないほど強い『気』を持っています。それが、時として相手にプレッシャーを与えてしまうことがあるのを忘れていました」
 兵摩は口元に苦笑いを浮かべて言った。
「まず自己紹介をしておきます。僕の名前は、志垣(しがき)兵摩(へいま)。よろしく」
「あ、どうも」
 軽く会釈をしてきた兵摩に、思わず会釈を返した竜聖だが、あまりにも異常なシチュエーションである。大体、「シンセン」だとか、「普通の人間」だとか、わけがわからない。ひょっとしたら、「イッちゃってる」系の人ではないだろうか。もしそうなら、とっとと逃げるに限る。
 そう考えた竜聖だが、同時に兵摩の言うことや彼の存在そのものも自然に受け入れていることに気づいた。
 軽い衝撃だった。
 先刻の女性が消えたことといい、今といい、どうして自分はあっさりと順応しているのだろう。
 竜聖は、思わず兵摩に尋ねた。
「もしかして、昔どこかであったことがありますか?」
 普通ならこんな質問、絶対にしない。初対面の相手に対して「どこかであったことがありますか」と聞くなど、ナンパでも使わないのではないのだろうか。ましてや相手は同性である。何かのセールスの手口みたいだ。
 もちろん竜聖もそんなことはわかっている。だが、どうしても確認しておきたいのだ。なぜ自分はこの人物を知っているかのような感覚にとらわれているのかを。
 その問いをある程度予期していたのか、兵摩は自分自身に確認するかのように頷いて言った。
「いいえ、少なくとも君が僕と会うのは、これが初めてですよ」
 今の答えで納得しろと言うのは、いくら何でも無理というものだ。竜聖がいかにも不満げな表情をしていたのだろう、再び苦笑いを浮かべて兵摩は言った。
「わかりました。君にすべてをお話ししましょう。君には、それを知る権利がある。でも」
 と、兵摩は急に真剣な表情になった。
「それなりに覚悟はしておいてください。もしかすると君は、もう後戻りできないところに来ているのかも知れないのですから」


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