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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第64回 第五章・二
「いやあ、最近は客が多くて退屈しなくていいねえ。だからといって、ここが退屈、てわけじゃないけど」
 彼女は傍らの女性がついだ酒を口に運びながら言った。
 先刻から気になっていること、竜聖がそれを聞こうと口を開きかけたその時、彼女の方から話し始めた。
「ボクの名前は……。そうだね、キミにはこう名乗った方がいいかも知れない。ボクの名前は『煌竜(こうりゅう)』。竜夢神仙界創造に手を貸した存在。そして、君の名前は城宮竜聖クン」
 竜聖はあまりの衝撃に息が止まるのではないかと思った。この人物は竜聖の思っていることを先回りするだけではない。竜聖のことも知っているようだし、何より「煌竜」と名乗っている。
 この女性の言うことがどこまで本当かわからない。だが竜聖の名前を知っているのは確かなのだ。
 煌竜と名乗った女性は、蠱惑(こわく)的にさえ見える笑みを浮かべて、竜聖を見た。

「いろいろ知りたいことがあるようだね」
 煌竜の問いに、竜聖は頷いた。いろいろ知りたい、などというレベルの話ではない。わからないことだらけで、知りたいことだらけなのだ。
 しかし、いざ言葉にしようとすると、うまく表現出来ない。それは今ここに来て湧いた疑問(例えば、彼女(こうりゅう)の素性とか、竜聖のことを知っていた理由とか)のせいもあったかも知れない。
 もどかしいばかりで何も言えない竜聖を見ていた煌竜は、苦笑いとともに溜め息をついた。
「そうだねえ、それじゃ、ちょっとボクの昔話につきあってくれるかな?」
 その言葉に頷くと、竜聖は真剣な心持ちで煌竜を見た。
 その気持ちの乗った竜聖の視線に気づいているのかいないのか、煌竜は杯に口を付け、傍らの女性に肩に腕を回し、その頭を撫でながら話し始めた。
「すごく昔。キミたちの時間の概念で言うと、何千年も昔。神仙界に住まう一部の神仙たちは、こう考えたんだ。『真の意味で完全な世界、神の世界にも匹敵する世界を創ろう』と」
 煌竜に頭を撫でられている女性はうっとりとして目を閉じている。その様子はどこかエロティックであったが、竜聖はむらむらと湧き起こる性的興奮を押さえ、話の続きを待った。
 煌竜は女性から目を転じ、竜聖を見た。自分の淫らな心の内を見透かされたのではないかと焦る竜聖だったが、そんな狼狽は一向に意に介さぬ様子で、煌竜は言った。
「竜聖クン、キミは『神仙界』とは、どんなところだと思う?」
 突然の問いかけに、竜聖はしばし考え込んだ。
「ええっと、よくわからないけど……」
 頭の中にこれまでに見聞きしていた「仙人」の情報、悠姫や兵摩、そして千岳大帝のことを思い描く。そして導き出した結論は、おそらく最大公約数の解答ではないかと思われた。
「不思議な力を持った神仙たちが住んでいて、時々事件は起こるみたいだけど、自由に楽しく暮らせる世界。一種の理想郷、かな?」
 全く自信はなかったが、まるっきり見当はずれでもないだろう。そう思いながら、おそるおそる煌竜の顔を見た。
 煌竜は、笑顔を浮かべてはいたが、それはどこか困惑気味だった。
「やれやれ、やっぱりそうか。いいかい、竜聖クン。神仙界はキミたちが思っているような世界じゃない」
 そう言うと、煌竜は真剣な表情になって言った。
「神仙界には、真の意味で『自由意思』というものはない。『自由意思』があるのは、神の住む『神界』と『人間界』だけなんだ」
 予想だにしない言葉だった。神仙界が理想郷ではないなど、誰が思うだろうか。
「神仙界には『戒律(かいりつ)』がある。存在そのものを規定し『括(くく)る』法則といってもいい。そして神仙界に住む者は、その法則から逃れられない。いや、神仙界自体がその『括り』によって存在していると言っても過言ではない」
 この内容は竜聖には少し難しかった。そこで煌竜は、身近な例で例えた。つまり、一日のスケジュールが分刻みで決まっていて、その通りに実行しなければいけないのが神仙界の実態なのだという。
「ちょっと極端な喩えだけどね。そもそも神仙界というのは、原初の頃、神になれなかった存在が創り出した世界なんだよ。彼らはそこで徹底した修行を積んで神になろうと考えたんだね。もちろんその目的を果たした者も多くいる。今こうしている時にも、その目的を達し、神に『成る』者もいる」


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