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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第63回 第五章・一
 季節が巻き戻ったのではないのだろうか。そう、三ヶ月ばかり。
 そう思ってしまうような光景が、竜聖の目の前に広がっている。
 眩い陽の光が降り注ぐそこは、一面、満開の桜の園。
 どこかから音楽が聞こえてくる。そちら方面には詳しくないが、多分、雅楽だろう。聞いていると「お正月」というイメージが頭に浮かんでくる。
 自然と足が音楽の流れてくる方へと向かう。しばらく歩いていると、音楽に混じって楽しげに笑う女たちの声も聞こえてきた。
 これは夢だろうか。いや、そうではないような気もする。竜聖の思考はまるで夢の中のそれのようにまとまりがなく、どこか寝ぼけているような、起き抜けのような感じで、しっかりものを考えることが出来ないでいた。
 それでも音に引きずられるように歩いていると、何となくではあるが、頭がすっきりとしてくるような感じがある。
 半ば無意識に歩いていると、突如開けた場所に出た。
 雪が降るように、風に舞い踊る桜の花吹雪の下で、若い男女が五人、桃色の絨毯(じゅうたん)のようなものを敷いて、酒宴に興じていた。皆、中国の歴史物に出るような格好だ。四人いる女たちは、薄紅色や若草色、橙(だいだい)色に灰白(かいはく)色と、思い思いの色の衣装を着けている。まるで天女のようだと、竜聖は思った。あぐらをかいて座っている男は、「袍(ほう)」というのだろうか、昔の中国を舞台にした拳法映画で、主演の俳優が着ていた服のようなものを着ている。もっとも、こちらの方が生地もよさそうだし、色も紫色と、高貴な感じがあるが。
 若い男が中心のようだ。天女たちを侍らせるようにして、杯(さかずき)を口に運んでいる。年齢は二十代半ばだろうか。瓜実顔で切れ長の目。腰まである髪は、ストレートにしている。格好いいというよりは、綺麗という形容がしっくりくる。もしかしたら、男ではなく女ではないだろうか。竜聖はそう思って、男の胸元を見た。
 そこには、はっきりと膨らみがあった。服のたるみなどの見間違いではない。間違いなく、そこには確かな質量があった。
 驚いて息を呑んでいると、男、いや、男装の女が彼に気づいたらしい。口元に笑みを浮かべて言った。
「そんなところで呆けていないで、こっちへおいでよ」
 女たちも竜聖の方を向いて笑いかける。
 彼女らから敵意は感じられない。それに竜聖はここがどこなのか知りたかった。
 ゆっくりと歩き、女たちの前に立つ。ふと周囲を見回した。
 この五人以外に人影らしいものはない。それなのに音楽は聞こえてくる。彼女たちは、楽器らしきものを手にしていない。一体どこで演奏しているのだろう。
「多分、キミには見えないよ」
 竜聖が音の発信源を探しているのを察したのだろうか、男装の女が言った。
「『相(そう)』が違うからね」
 と、よくわからないことを言う。
「それより」
 と彼女は言った。
「何か着るものを貸してあげよう」
 そう言われて、竜聖は自分を見た。
 全裸だった。
 あわてて前を隠すと、天女のような女たちが弾けたように笑う。羞恥のあまり、顔から火が吹き出そうになった竜聖に、男装の女が少し含んだような笑いを浮かべて手を差し出した。
 次の瞬間には、竜聖は服を着ていた。袍だったが、男装の彼女のものとは違い、白く、両胸のところに金糸で竜の刺繍があった。よく見ると生地はサテンのようだ。
「うん、ボクとしては、こういうのが好みだね。キミ、結構いい線いってるし、似合うよ」
 男装の彼女が微笑む。思わず竜聖は顔が熱くなるのを感じた。
 彼女が勧めるまま、竜聖はその場にあぐらをかいた。


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