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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第60回 第四章・十四
 いったんその何者かは、竜聖から離れたようだ。だがすぐさま呪文を唱える声がした。
 悠姫の声だった。
 竜聖の心に、劣情と怒りがないまぜになった感情が、むらむらと湧き起こる。
 地面に出来たくぼみから体を出した瞬間、電子音声のような甲高い音が響いて、竜聖の肩にとがったモノが数本、刺さるような感触が起きる。
 苦痛を感じない竜聖は、それをうざったく思った。そして、この刺さったものが、残らず悠姫に戻ればいいと念じた。
 するとどうだろう、肩に感じていた不快感は無くなり、代わりに風の唸る音と悠姫の悲鳴が耳に届いた。
 一体何が起きているのか、早く視界よ、元に戻れ、と念じると、閉めていたブラインドを開け放つようにして視界が開けていく。
 いつの間に夜が明けたのか、さっきまでの月明かりの世界は消え、陽光眩しい世界が開けていた。
 そして、竜聖の視線の先、五メートルぐらいのところには、光の矢を両足の太股に撃ち込まれ、血をにじませた悠姫が立っている。
 悠姫が呪文を唱えると、その矢は見る見るうちに消えた。
 悠姫はひるんだ様子を見せず、手にした金属の板を振り下ろす。光の刃は出せなかったが、小気味のよい音がして、金属の板が展開した。
 扇だった。
 悠姫は呪文を唱え、その扇で一度、竜聖を扇いだ。
 風の代わりに痛い「何か」が当たってくる。
 ここに来て初めて感じた「痛み」に、竜聖は途端に焦りを感じた。
 よくわからないが、あの扇は危険だ。そして、あの扇を使った仙術も。
 悠姫が再び扇ぐ。
 それをかわすように、竜聖はジャンプした。宙に浮いている一瞬の間に、竜聖は考えた。
 悠姫には今、心臓がない。そしてその状態は、彼女にとってベストコンディションではなく、おそらく使える仙術も限られているはず。さらに、使える仙術の中でも、威力の高いものや消耗の激しいものは、それなりの下準備をしているはずだ。
 そこまで考えた時、竜聖の頭の中に電光のように一つのことが閃いた。
 そうか、「太陽」だ!
 竜聖は一度着地してから、再び飛んだ。そして中天で輝く太陽を目指す。
 思えば、あの閃光があってから、悠姫は仙術を連発しているのではないか?
 竜聖は、太陽を睨んだ。
 不思議なことに眩しさを全然感じない。そればかりか、太陽の「中身」まで見えてきた。たくさんの文字や、記号が並んで、回転したり、目まぐるしく書き変わったりしている。
 竜聖は確信した。この太陽こそ、今の悠姫を支えているモノだ、と。
 はたしてその推測は正しかったようだ。悠姫が追撃してくる気配が感じられる。その攻撃は、かわすのが容易な光の弾丸や、当たっても何にも感じない炎の弾丸であるところからして、悠姫が竜聖の追跡の方に、よりエネルギーを割(さ)いていることは明らかだった。
 竜聖は勝利を確信した。あの太陽を破壊すれば、悠姫は何も出来ない。
 この手であの太陽を握りつぶしてやろう。そう、竜聖が思った時だった。
 目の前の太陽が急に明度を失っていくではないか。そしてそれと同時に、悠姫の気配もなくなった。
 太陽の明るさが、曇天と変わらぬ程に弱った時、地面に何かが激突するような鈍い音を、竜聖は聞いた。


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