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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第59回 第四章・十三
 何が起きたのか、実は正確には竜聖にわかっていない。ただ、気がついた時には、彼は鼻息も荒く、地面を掘っていた。
 我に返ると、竜聖は辺りを見回した。
 兵摩の側に片膝立ちになっている悠姫を見つけ、吠える。
 それを聞いた悠姫が、竜聖を見て仰天の表情を浮かべた。
「そんな! 今かけたばかりなのに、もう私の術を破るなんて?!」
 どうやら今の竜聖には、目くらまし程度の仙術は通用しないようだ。
 竜聖はゆっくりと立ち上がる。その心の中には、暴虐な欲望がはけ口を求めて、火口を目指すマグマのように蠢動(しゅんどう)していた。
『そんな格好しやがって! 俺を誘ってるんだろうが! テメエは、黙って脚広げりゃあ、いいんだよッ!!』
 そう思いながら、竜聖は再び悠姫への間合いを詰めようと身構える。
 悠姫がその表情を険しくして立ち上がった。

 それは空中戦と呼んでもよかった。
 悠姫のあとを追っていた竜聖は、いつの間にか自分が空に浮かび、自在に動き回っていることに気づいた。
 かつて味わったことのない爽快感が身を包む。水の中でさえここまで自由に体は泳がせられない。
 竜聖はまるで道路を蛇行するように空を飛び、悠姫の周囲を回った。それは挑発する行為にも似ていた。
 悠姫は宙に浮いたまま、無言で懐から長さ三十センチぐらいの何かを取りだした。月の光を反射したそれは、ちょっと見には金属製の物差しのようだ。
 彼女はその物体を胸の前に差し出し、何か呟いた。その直後、その物体の、悠姫の親指側の端から、青い光が噴き出す。それはアメリカのスペースオペラ映画に出てくる、光の剣に似ていた。
 剣を構え、悠姫が竜聖目がけて飛んでくる。そして、振り上げた光の刃が、まさに竜聖の体に触れようとした瞬間。
 何が起きたか、悠姫の表情が苦悶に歪み、刃が止まる。だがそれも一瞬のこと、悠姫はそれでも何とか剣を振り下ろした。しかし、竜聖の体に到達する直前、光の刃は消え去った。
 舌打ちをして悠姫は竜聖から飛び去る。
 何が起きたか、竜聖にはよくわからない。
 見ていると、悠姫は再び剣に念を込める仕草をしている。だが、刃が現れる気配はない。
 それを見て竜聖は、気がついた。いや、直感でわかった、というべきだろうか。
 自分の想像に、こみ上げてくる笑いを抑えることもせず、竜聖は言い放った。
「『出力不足』のようだなあ、え? それとも、俺の側に来ると『濡れて』集中が乱れるか?」
 遠目に見ても明らかにわかる程、悠姫は怒りをたぎらせて竜聖を見る。
 その気配が一瞬、悲しげなものに変わったように感じたが、次の瞬間には悠姫は再び闘気を噴き上がらせていた。
「竜聖、可哀想だけど、手加減出来ないわ!」
「へえ。それじゃあ、本気とやらを見せてもらいましょうか?」
 鼻で嗤った竜聖の目の前で、いきなり太陽にも似た閃光が炸裂する。
 視界が真っ白になった。
 目の奧が重くなる。
 何事が起きたのか判断がつかないまま、竜聖はどこからどう仕掛けてくるか、わからない悠姫に対して身構えた。
 すると、突然に天地が逆転し、落下し始めた。あわてて上昇しようと宙で向きを変え、飛び上がる。
 だが、天地は逆になど、なっていなかった。急上昇したつもりの竜聖は、そのままの勢いで地面に頭から突っ込んだのだ。
 首の辺りで鈍い音がした。
 だが、やはり痛みを感じない。起きあがって、首を撫でる。おかしな方向に首が回りそうになるが、少し押さえただけで治ってしまった。
 痛い思いはしなかったが、こけにされたのが気に障った。竜聖は立ち上がり、視力の回復しない目の代わりに気配で悠姫を探った。
 だが見つけ出すより早く、次なる衝撃が天から降ってきた。まるでマネキン人形が何体も降り注いできたような衝撃が起きたあと、確かな意志を持った人型のものが、竜聖の首根っこに覆い被さるように降ってきたのだ。それは竜聖の首を起点にして、空中で一回転したかのような音を唸らせ、彼を吊り上げた。そしてそのまま彼を地面に叩きつけたのだ。
 地雷でも埋められていたのではないかと思うほどの衝撃が起こり、体が地面の中に埋まる。


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