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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第58回 第四章・十二
 悠姫はなぜか、悲しそうな表情を浮かべている。
「お願い、竜聖、正気に戻って!」
 叫ぶ悠姫を見て竜聖は、不思議で仕方がなかった。
 兵摩といい、悠姫といい、なぜ「正気に戻れ」などと言うのか。自分の意識は、はっきりしている。いや、むしろ今までの方が「正気」ではなかったと思えるぐらい、今の自分は自分らしく輝いているのではないのか? 消極的に、ただ漫然と生きていた過去の方が、どうかしていたのではないのか?
 だが、思ったことを竜聖はそのまま口にしなかった。
 何かが引っかかるのだ。
 それが何かはわからない。
 だが、悠姫を見ていると、自分にとって大切な「誓い」にも似た決意を、忘れているような感覚にとらわれる。
 悠姫はまだ何かを竜聖に語りかけている。しかし竜聖はいちいちそれを聞いてはいなかった。
 頭の中で必死に何かを訴えかけるモノがいる。それはなぜか自分自身のような気がする。
 その訴えに耳を傾けようとすると、すさまじい力の奔流が竜聖を押し流そうとするのだ。
 その奔流に逆らっても、ことごとく脚をさらうかのようにさまざまな欲望が現れては消える。
 竜聖は何度も何度も頭を振って、雑念を振り払おうとした。だが、それを上回る圧倒的な力が竜聖をねじ伏せようとする。歯を食いしばり、拳を握りしめ竜聖は耐えた。
 だが、ふと顔を上げて悠姫を見た瞬間に、全ての努力は潰(つい)えた。
 一つの欲望が竜聖の下半身から湧き起こる。
 そして彼はその欲望を満たすために行動を開始した。
 歩き出した竜聖の姿に何を見たか、悠姫は身構え、小さく呪文を唱え始めた。
 悠姫の呪文詠唱とほぼ同時に、竜聖の体が脱力を始める。膝に力が入らない。まるでへし折られるように、竜聖は膝を曲げ、地に着けた。
 次は腰だった。骨の鳴るような音がするほど急激に体を折り曲げ、竜聖は前のめりに倒れてしまう。
 そして急速に眠気が襲ってきた。
 だが。
 体の奥底から力が湧いてきた。仙術にかかった、と思った瞬間、全身から静電気のようなものが放射されるのを感じたのだ。そして次の瞬間には、眠気は消え去り、再び欲望の炎が燃え上がっていた。
 脱力していたのは気のせいだったと思うほど、体に力が満ちてくる。
 唸りながら立ち上がり、竜聖は悠姫を見た。彼女はまだ呪文の詠唱を続けているようだが、竜聖は何の異状も感じない。余裕の笑みを浮かべて彼は悠姫に歩み寄った。
 悠姫が後ずさりしながら、さらに呪文を唱え続ける。焦りを感じているのか、その詠唱は早口気味だ。
 その様子が竜聖には滑稽だった。
 何の呪文か知らないが、もうそれは自分には効かないのだ。竜聖はそれを実感していたが、わざわざ教える気にはならなかった。
 ようやく悠姫も気づいたらしい。違う呪文に切り替えたが、それより早く竜聖は走り出し、悠姫に飛びかかって組み敷いた。
 女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女オンナオンナオンナオンナオンナオンナオンナオンナオンナオンナオンナ。
 犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯すオカスオカスオカスオカスオカスオカスオカスオカスオカスオカスオカス。
 悠姫を見ながら、竜聖の頭の中ではこの二つの言葉だけが渦を巻いていた。そのため、悠姫が別の仙術を使ったことに、一瞬気がつかなかった。


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