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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第57回 第四章・十一
 正確には、仙珠を埋め込まれた時から少しずつ仙珠の因子が流れ込んでいたのだろう。それは仙珠がその宿主を、コントロールするための最小限の因子だったと思う。
 しかし、千岳大帝に仙珠をえぐり出され、竜聖は「死んだ」。その時点で体霊も機能を停止した。
 その後、悠姫の心臓によって息を吹き返したが、「神仙の心臓」という特殊な要素のために、竜聖の体霊は顕在的に力を発揮しないかわりに、より「神秘的」な力を持ち始めたのではないか。
 そして今回の修行によって体霊が活性化したことにより、一気に竜聖の体に異変が起きたのだ。
 その引き金は、どうやら感情の昂ぶりにあるようだった。思えば、腕が怪物化した時はいずれも何らかの感情がピークになった時だったではないか。
 だが、そんな考察はどうでもよかった。竜聖の興味は、目の前にいる獲物を引き裂き、破壊の限りを尽くすことだけだからだ。むしろ、そうしなければ体中にあふれる力で、この身が四散してしまいそうだった。
 今にもどうにかなりそうな頭の中を、振り払うように一声吠えると、竜聖は兵摩へ飛びかかった。
 その刹那、わずかに目的の姿がかすむ。しかし次の瞬間、再び兵摩の姿が現れた。
 しかし竜聖は急制動をかけて停止した。
 これは偽物だ。
 直感で感じる。
 匂いでわかる。
 気配を感じる。
 竜聖は感覚の命ずるまま、急制動をかけた直後に振り返り、自分の背後の何もない空間に右手を突き込んだ。
 息を呑む音、風がうなる音、そしてそれに混じって、柔らかいものが破れるような音が聞こえ、弾力のあるものを掴んだ感触を覚える。
 視界が歪んだと思った瞬間、そこに兵摩が現れた。
 竜聖の右手は、兵摩の左脇腹を貫いていた。弾力のあるものは彼の腸(はらわた)のようだ。
 兵摩は、どうやら竜聖の背後に回り込んで手にした剣を振り下ろそうとしていたようだった。だがいきなり竜聖が振り向いて右手を突き出してきたので、あわてて体をひねってよけようとしたが、間に合わなかったらしい。吐血し、兵摩は身を震わせる。
「幻じゃ、ないみたいだな」
 そう言って手を振り抜くと、竜聖は軽く兵摩を蹴り飛ばした。
 まるでボールを蹴ったように、勢いよく跳ね上がった兵摩は、受け身をとることなく地に墜落した。
 かすかに動く腕を見る限り絶命してはいないようだが、立ち上がることも出来ないらしい。
 それを見ているうち、いつの間にか竜聖は鼻歌を歌い出していた。
 こんなに気分がいいのは初めてかも知れない。
 そう思いながら、竜聖は横たわる兵摩の方へ歩き出す。
 まだ遊び足りない。兵摩を使えば、まだまだ面白い遊びが出来そうだ。
 そう思いながら、兵摩の側まで来た時だった。
「竜聖!!」
 氷で出来た槍のような、鋭い女の声が耳に届いた。
 声のした方に頭(こうべ)を巡らせると、十メートルぐらい先に一人の女の姿。巫女装束に似た服を着ているが、それはあまりに淫らで背徳的であった。
「悠姫」
 現れた女を見て、竜聖が呟いた。


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