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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第54回 第四章・八
 全身の体毛が逆立つような感覚とともに、皮膚と表皮の間を小さな虫が這い回るような不快な痛みが、竜聖を襲った。指と爪の間に針を差し込まれるかのような痛みに、竜聖は手を震わせながら爪先を見た。
 まるでアメ細工でも作るかのように、爪が歪み、変形していく。
 髪の毛が一本一本引っ張られるような痛みに、思わず頭を押さえる。
 腕や脚の筋肉が盛り上がっていき、その膨張に耐えられず、皮膚が裂けていくのを感じた。
 目が熱くなってゆく。目が思い切り、見開かれていくのが感じられる。まるで眼球が膨らんでいくような錯覚さえある。
 いや、実際に膨らんでいるのかも知れない。眼球の急激な膨張に対応出来ず、目のまわりの皮膚が裂けているようだ。目尻、そして目の下から頬の中央にかけて表皮が裂けていくのが感じられる。
 皮膚の裂ける音が、骨を伝わり直接頭の中に響いた。
 着ているウェアが、急に小さくなった。まるで小学生の頃の服のようだ。
 あまりの窮屈さに、服を脱ぎたくて仕方がない。だが、体を走る苦痛のためにうまく脱ぐことが出来ない。
 もどかしさに唸りながら、竜聖は服を引きちぎった。はずみに、ペンダントのチェーンが引きちぎられ、混沌陰陽盤が跳ね飛ぶ。
 まるで紙や糸でできていたかのように易々と破り捨てると、竜聖は、大声で叫んだ。
 否、吠えた。
 その途端、えもいわれぬ解放感とともに体が楽になった。
 さっきまでの痛みは幻であったか。
 火照った体を冷やすかのような夜風が気持ちいい。
 全身に力がみなぎっている。
 かつてない程、精神が昂揚(こうよう)している・
 今だったら、何でも出来るような気がする。
 そうだ、あのチンピラどもを探し出して、この腕で叩きのめしてやろう。この脚で蹴り付けてやろう。この爪で髪を引き抜き、さらし者にしてやるのはどうだろうか。
 いや、せっかくだから、この爪で体中を引っ掻いてやろう。この腕で体中の骨が砕けるまで殴ってやろう。この脚で倒れた奴らの体を蹴り回してやろう。
 いやいや、どうせなら、この手で頭を掴んで振り回し、アスファルトに叩きつけ、この足で頭を踏みつぶし、この爪で臓腑を残らずえぐり出し掻き出してやろう。
「そうだ、それがいい!」
 そう口に出した竜聖は、わき上がった欲望に、心が躍った。
 かつてこれ程の楽しい気分を味わったことがあっただろうか。小学校時代、遠足の前日。中学校時代、修学旅行の前日。確かに、あの時も多少は浮かれた気分だった。
 だが、今のこの気分に比べれば、あれすらも日常の惰性で感じる楽しさの一つに過ぎない。
 今、この昂揚感こそが、本物の楽しさであり、生きている充実感であることを、竜聖は噛みしめていた。
 そうなれば、善は急げ、だ。
 竜聖は、この異空間からの出口を探した。
 辺りを見回すが、それらしいところはない。
 しばらく周囲に目を走らせたが、出口がどうしてもわからない。
 とりあえず竜聖は走り出した。走っていれば、いつか出口にぶち当たるだろう、そう思って。
 広場から森の中に入り、どれほど走ったか。一向に木々の壁は無くならない。立ち止まり、辺りに目をやる。
 木、木、木、木ばかり。というより、木しか見えない。天に輝く月の明かりは、森の中も照らしていたが、その明かりの下、視界は一面の木であった。
 気ばかりが焦る。
 自分は、一刻も早く殺戮(さつりく)がしたいのだ!
 口には出さないが、そんな思いが獣のような唸り声となって、喉の奥から漏れ出す。


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