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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第45回 第三章・十一
 次なる場面は、どこか正確にはわからない。どうやら何かの儀式用にしつらえた特別な部屋のようだ。そこで自分は何かの札を前に、呪文を唱えている。かなり長文のようだが暗記しているらしく、頭に浮かぶより早く口から滑るように呪文が紡ぎ出される。その呪文の一言一言を受けるように、札の文字が光を放っていく。やがて呪文は終わったようだ。自分は札を手に取り、今度は短い呪文を唱える。そして息を吹きかけ、宙に放った。するとその札は空中で翻り、黒光りするベルトに姿を変えると、真っ直ぐ自分の方に飛んできた。だが、自分は避(よ)けようとしないし、思いもしない。かわりに、悲愴な決意ばかりが胸の中を占めている。そしてそのベルトが首に巻き付いた瞬間!
 奇妙な感覚が起こった。夢の中で竜聖は一人の女性(それはどうも悠姫らしいが)になっている。にも拘わらず、客観的な視点で悠姫を見ているようなのだ。かといって悠姫の姿を外から見ているわけではない。やはり自分は悠姫に「なって」いるのだ。
 実に奇妙な感覚だった。まるで自分が二人いて、もう一人の自分が一方を観察しているような感じだ。
 だがそんな感覚に慣れる間もなく、場面は変わってしまった。
 次なる場面は、炎が燃え広がる部屋。かなりの広さがある。そして、数メートル先に千岳大帝の姿がある。
 自分は、何の感慨も抱かずに千岳大帝に言った。
「千岳大帝。玄帝陛下の勅命により、お前を捕縛する。もし抵抗するなら、お前をこの場で断罪する権限も、本官には附与されている」
 そして空間に何かを描く仕草をした。と同時に、何もない空間に光で出来た護符のような物が浮かび上がる。
 それを見た千岳大帝は、険しい表情を浮かべて言った。
「なるほど、玄帝の詔書か。よくぞここまで思い切った。我が娘ながら見事だ」
「娘などと軽々しく呼ぶな。親子の縁は切った、そう言ったのはお前だ」
 千岳大帝が顔をしかめたように見えたのは気のせいだったろうか。
 悠姫となった自分は、それには構わず言った。
「仮にも『大帝』という、玉帝(ぎょくてい)に次ぐ地位と称号を賜ったお前だ。お上にもお慈悲はある。潔く縛につけ!」
 だがそれを鼻で嗤うと、千岳大帝は言い放った。
「視野(しや)狭窄(きょうさく)に陥って、人界・神仙界二つの世界の行く末が見えなくなった応竜玄帝に伝えるがよい。儂は必ず人間界を人の手に取り返し、導いてみせるとな!」
 その言葉に、かすかだが胸に怒りの感情が生まれる。だが、それは真昼の燭火(しょっか)のようにかすかなものであった。
 自分は複雑な印を素早く組んだ。手の中に七色の光が湧きだし、質量が生まれる。その質量を右手で握りしめ、上から下へ一気に振り下ろした。
 次の瞬間には、その手に剣が握られていた。周囲の炎を反射する刃は、自然の光の中で見たらさぞ眩い銀色であろうと思われた。さらに剣に刻み込まれた七つの点が、炎の中にあっても、鮮やかな金色の光を放っている。
 剣は重すぎず軽すぎず。自分の腕と一体になっている感さえある。
 その剣を見た千岳大帝が驚愕の表情を浮かべる。
「もしや、それは『紫火七星』か?!」
 黙って頷くと、自分はその切っ先を千岳大帝に向けて宣言した。
「速やかに縛につけばよし。さもなくば、仙胎すら滅ぼすこの宝剣で、お前を斬る!」
 しばし睨み合う二人。そして、自分は一気に踏み込んで剣を振り下ろした。


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