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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第42回 第三章・八
 咄嗟に声のした方を見ると、銀の光が真っ直ぐに向かってくるところだった。
 その銀の光は一直線に飛び、千岳大帝の右脇腹に突き刺さる。
 千岳大帝が顔をしかめた。
 その光は、月光を反射した紫火七星だった。剣を手にした悠姫が何か呪文を唱えかけた時。
「キサマッ!」
 まさに鬼のような形相をした千岳大帝が、右手で悠姫の首を掴んだ。
 一瞬、悠姫が呻き声を漏らす。
 万力で物を挟むように千岳大帝は力を込める。悠姫は剣から手を離し、千岳大帝の手をふりほどこうとしているが、全くかなわない。
 今にも悠姫の首が握りつぶされそうになった、その時であった。
「おおうッ?!」
 千岳大帝が驚きの声を上げた。
 竜聖も思わず息をのむ。
 悠姫の首から煙が出ているのだ。だが、千岳大帝が驚いたのはそのことではないようだった。
 まるでゴミくずでも捨てるかのように無造作に悠姫を放り出すと、千岳大帝は己の右手を見た。
 そこに何を見たか。
 次の瞬間、千岳大帝は脇腹に刺さった紫火七星を抜き取ると、倒れ込んだ悠姫に言った。
「こんな呪符に頼らねば、儂と剣を交えることが出来ぬのか。そんな弱さを持っていたのでは、儂に勝つことなど永久にかなわぬぞ」
 そして再び竜聖に向く。
 だが、さすがに今の一撃が応えているらしい。よく見ると、かすかだが剣の刺さっていた辺りから、光の粒のようなものが空気中に漏れだしている。
「滅尽七星真図を破るために、蓄えた『煌竜の力』をすべて解放してしまった。今一度、仙珠より引き出さねばならぬ。少年よ、それまで混沌陰陽盤はお主たちに預けておこう」
 そして、剣を手にしたまま虚空へと、かき消すように見えなくなっていった。
 戦いは、どうやら終わったらしい。安堵とも何ともつかないため息を漏らし、体の痛みに耐えて、竜聖が立ち上がる。
 ふと目を落とすと、悠姫が座り込んでいた。彼女はしばらく首の辺りをさすっていたが、それまでしていた黒い首輪のようなものが無くなっている以外は、傷らしきものはないようだ。
 だが、何か様子がおかしい。そしてその理由に竜聖はすぐに気づくことができた。
 泣いているのだ。
 感情など知らないような彼女が、涙を流しているのだ。そしてその表情は、どうしていいかわからず泣きじゃくる迷子のように、頼りなさげで、落ち着きのないものだった。
「悠姫」
 驚きのあまり呟くと、いつの間に来ていたのか、兵摩が竜聖に対し黙って首を横に振った。そして言った。
「戻りましょう。今の私たちに出来ることは、それだけです」


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