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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第4回 第一章・三
 いつもそこで目が覚めるのだ。
「欲求不満だよなあ、絶対」
 今日も思わずこんな言葉が竜聖の口をついて出た。以前は週に一度見ていた夢だが、夏休みが近づいた最近はよく見るようになった。より正確には、夏休みまであと十日と迫った今日で、実に一週間ぶっ続けでこの夢を見続けているのだ。
「恋人でも作れば、違うんだろうけど」
 やや、くたびれた声でそんなことを呟きながら、竜聖はベッドから起きあがって大きく伸びをした。
 自慢ではないが、竜聖はモテる部類に入る。容貌はどちらかというと好青年風。かといって「いい人」なのではなく、どこか壊れそうな危うさがあってそこが母性本能をくすぐるのだ、と、女生徒たちが話していたことがある。
 また筋肉質というわけではないが、無駄のない締まった体つきをしている。クラスメイトから、何か武道をしているのではないかと尋ねられたことがあるが、そんな経験はない。にもかかわらず、彼の運動能力や身体能力は、全校生徒の中でも群を抜いていた。短距離走では非公式ながら高校新のタイムをたたき出し、長距離走では記録自体は凡庸だったものの、彼一人呼吸が乱れていなかった。授業で砲丸投げの時、手加減をしたにもかかわらずエリアの外に飛び出してしまい、グラウンドを走って横切ろうとしていた男子生徒の目の前に落下したこともあった。あの時はさすがに肝が冷え、それ以降、自分が出せる力の三割程度にとどめるよう心がけている。
 身体計測時、視力は両目とも二・〇であり、これは新入生でただ一人のことであった。
 もっとも、ここまで常人離れした身体能力が発現したのは、高校に入学する頃からである。それまでは脚が速い、力が強いとはいっても常識の範囲内であった。中学校の頃、一時期バスケ部と陸上部を掛け持ちしていたこともある。
 そんなことから運動部に熱烈に勧誘されたこともあるが、彼は独り暮らし故のアルバイトの忙しさを理由に断っている。
 そして彼が部活動を嫌うもう一つの理由は、その人間関係にあった。中学時代、入学したばかりでしかも入部直後の自分が、上級生を差し置いてレギュラーになってしまったことがあった。それが「先輩たち」の気に入らなかった様で、彼はいわゆる「後輩への指導」にあわされたことがある。
 だが彼は逆に先輩たちを、伸してしまったのだ。それ以後、彼にちょっかいを出すものはいなくなったが、かえって竜聖は白けてしまった。
 何となく時間の浪費に思えて、莫迦莫迦しい気分になってしまったのだ。それで部活動にも身が入らなくなり、やめてしまった。そして、そのせいもあるのだろうか、何となく一人でいることが多くなった。
 そのあたりが何かストイックなものを感じさせもするのだろう、一部の女生徒からは熱い視線を送られて、実際にラブレターをもらったり告白されたこともある。
 しかし彼は、その誘いをことごとく断っている。
 それは彼が恋愛否定論者だからではない。 ベッドから出ると、寝室を出て階段を下りる。そして彼はリビングへ行き仏壇を見た。
 十年前に「事故死」したという両親が写っている。
 記憶にないのだが、彼は十年前に、何かの事故に巻き込まれたらしい。そしてその時両親は亡くなっているということなのだ。さらに彼は両親の死の瞬間を見ているらしいとのこと。
 そう、彼には「死」がとりついている。
 記憶にはなくとも、彼にはその時の「死」が体に染みついてしまっている。彼はそんな風に感じていたし、それが故に人生に対して希薄な関わりしか持てないのだ。
 死に魅入られた自分は、たぶん皆よりも早く死ぬ。
 そんな風に思っているのだ。


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