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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第37回 第三章・三
 刃が触れてもいないのに、木々の枝が宙を舞って落ちていく。風がうなるごとに木の葉が乱舞し、土塊(つちくれ)が舞い上がる。舞い上がった土塊と乱舞する木の葉は螺旋を描き、見えざる空気の流れを竜巻と化して、竜聖に見せつけた。
 悠姫の剣技は、あたかも舞うが如く。それがすでに一個の舞であるように、無駄が無く、優雅にさえ見える。そして事実、竜聖は悠姫の動きに見とれていた。
 戦いの中にあってなお、美しさを感じる余裕を、自分はまだ持っているのか、と自問する。
『違う、戦いを忘れさせるほどの美を持っているんだ』
 先の問いに、自ら答える。
 対する千岳大帝も、最小限の動きで剣をかわしている。
 両者の駆け引きはどちらも甲乙つけがたいように思われた。
 だが、不意に千岳大帝が手品師のように両手の平から無数の「札」を出現させ、それを四方八方に振りまいた。空中を飛んだ札は、まるで動力を持っているかのように自在に動き、宙に浮かぶ。
 それが完了すると見えた瞬間、千岳大帝が短く呪を唱えた。
 宙に浮かんだ札が発光し、あるものは火を、あるものは雷を、またあるものは光の矢を吐き出した。それらは一様に悠姫を目指す。
 悠姫も炎は剣でいなし、雷は左手で受け止め、光の矢は剣で地に叩き伏せた。
 だが、札の攻撃は刻一刻とその姿を変える。悠姫に当たらなかった炎は別の札に当たり、反射した。そして反射する時には雷へと姿を変え、悠姫を襲う。はじかれた雷は、光の矢を放った札に反射し、光の矢に変化して悠姫を貫かんとする。悠姫にかわされた光の矢は別の札に反射して、周囲の空気を震わせる「気」の弾丸となり、悠姫の肉をえぐろうとした。
 四方八方からの攻撃を、悠姫はまさに舞うようにしてかわす。しかしそれでは千岳大帝に攻撃を仕掛けられそうもない。
 竜聖がそう思った時、彼は胸にかすかに痺れと熱を感じた。それと同時に体が脱力していく。立っていることは出来るが、できるなら座りたい。体が自然によろめくと、竜聖は踏ん張ってその状態に耐えた。
 まるで体の力がなにかに吸われているようだと竜聖は感じた。そしてそれは胸を発信源として、空気中と、地面の二カ所に流れていくように感じられる。
 これが悠姫の言っていた「心臓と繋がる」ということなのだろうか。
 そう思って悠姫を見ると、彼女は攻撃をかわしつつ、何かを呟くように口を動かしている。そして息を噴き出すような仕草をすると、剣を天高く突き出した。
 その隙に、炎が悠姫の脚を焼き、雷が悠姫の腹を貫き、気弾が悠姫の下腹をえぐった。ほんのわずか彼女は顔をしかめたが、さしてダメージにはなっていないらしい。突き出した剣に向かって、何事か早口で叫んだ。
 その直後である。突如雷鳴にも似た轟音が天に轟いたかと思うと、空間に地震でも起きたかのような振動が天から「降って」来た。その振動が、千岳大帝の放った札を一枚残らず塵に変える。
 その振動は竜聖自身も感じることが出来たが、人の体にダメージを与える類(たぐ)いのものではないらしい。ただ、その衝撃は脱力した竜聖には耐えられないものだった。遂に彼はへたり込んでしまった。
 しかし次の瞬間、悠姫が高くジャンプした、その時だった。
 まるで自分の周囲に見えない籠があって、その把手をつかまれて天高く吊り上げられたような、そんな感覚が竜聖を襲った。
 それは錯覚ではない。実際に竜聖は空高く舞上げられていた。林を抜け、眼下に一面の木々が並ぶ。遠くにはかすかに見える山々の頂。
 半ばパニックになった竜聖は悲鳴を上げた。だが悲鳴を上げたところで、そこから降りられるわけではない。
 辺りを見回すと、四十〜五十メートル前方だろうか、千岳大帝と悠姫が宙に浮かんで対峙している。
「なるほど、人界にありながらもその剣を使いこなす技量、さすがは護衛府のトップエリート。だが、これはどうかな?」
 そう言うと千岳大帝は、腰の剣を抜き放ち、その切っ先をこちらに向けた。数瞬遅れてガラスの割れるような音がした。


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