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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第36回 第三章・二
 千岳大帝。
 竜聖の両親、そして竜聖自身の命をも奪った神仙である。
 まるで古代中国の武将がつけるような軍装で現れた千岳大帝は、重々しい声で言った。
「やはり来ていたか、護衛府(ごえいふ)特務(とくむ)監察官(かんさつかん)・太霊(たいれい)雪華(せっか)真仙寿(しんせんじゅ)」
 耳慣れない言葉に竜聖が首を傾げると、兵摩が素早く耳打ちした。
「『護衛府』というのは、警察と軍隊をあわせたような機関です。『特務監察官』というのは、そこの役職、『太霊雪華真仙寿』というのは、悠姫個人が玄帝陛下から賜った称号です」
 悠姫は静かに言った。
「千岳大帝。玄帝陛下の勅命により、お前を捕縛する。もし抵抗するなら、お前をこの場で断罪する権限も、本官には附与されている」
 悠姫は空間に何かを描く仕草をした。仙術なのだろう、何もない空間に光で出来た護符のような物が浮かび上がる。
 何が書いてあるのか、竜聖には読めなかったが、神仙たちにはわかるらしい。千岳大帝は鼻で嗤(わら)って言った。
「玄帝の詔書か。あの時と全く同じだな。ならば、儂の返答もわかっていよう?」
 悠姫は何も答えず、黙って空間の文字を消した。
「うぬ?」
 と、千岳大帝が何かに気づいたように呟いた。竜聖と目が合う。
 竜聖は思わず身を固くした。知らず知らずのうちに握りしめていた拳に力が入る。怒りとも恐怖ともつかない嵐のような感情が、心の中に渦巻いた。
 だが、竜聖の心中に比して、千岳大帝は柔らかな声で言った。
「あの少年は……。そうか、お前が生き返らせてくれたのか?」
「お前の不徳を、私が償ったのだ」
 悠姫は冷たく言い放つ。
 千岳大帝は、しかし穏やかな笑みで答えた。
「そうか。すまぬ。礼を言うぞ」
 一度は柔らかな笑みを浮かべた千岳大帝だが、不意にその表情を厳しくして言った。
「だが、それとこれとは別。儂もお前ごときに倒されるつもりはない」
 悠姫は珍しく怒りの感情を乗せて、答えた。
「望むところだ」
 言うと同時に、両手を合わせ何かの印らしきものを連続して素早く組む。その直後、悠姫の組んだ手の中で七色の光が強く閃いたかと思うと、次の瞬間、彼女の手には一振りの剣が握られていた。
 刃の部分の長さは悠姫の片腕の長さぐらい。その形状は、いわゆる西洋剣だったが、色は白銀ではなくどちらかというと黒ずんでいる。そして刃の表面に、金色に輝く七つの点がまるでうねる竜のシルエットを形作るように、配されているのを見留める事が出来た。
 それを見た千岳大帝が再び鼻で嗤う。
「フン。仙胎ですら滅する宝剣『紫火(しび)七星(ななせい)』か。だがその剣が真価を発揮できるのは、活力ある『気』に充ち満ちた神仙界であればこそ。『気』の病み衰えた人界にあって、どれほどの力を発揮できるものか」
「ならば、その身をもって知るがいい!」
 叫ぶと同時に悠姫が千岳大帝に斬り込んだ。風の鳴る音が数瞬遅れて竜聖の耳に届く。
 戦いが始まったのだ。


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