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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第34回 第二章・十四
 もし仙珠を使いこなせる様であれば、力の回復など造作もないことだと思われるからだという。
「しかし、ここへ来ても仙珠の波長に特別の動きはない。とすると、奴はまだ完全に仙珠の真価を引き出したわけではないと思う」
 竜聖にとっては、よくわからない話の連続だった。特に「仙珠」のくだりになると、自分が理解していることと食い違う様な気がしてわからなくなる。
 そもそも仙珠の力を使いこなせるから、千岳大帝は「道」を塞いだり、悠姫には解除不能な状態に竜聖の心臓と同化させる、といったことが可能だったのではないのか?
 竜聖は素直にそのことを口にした。
「そうだな。君に知らせても差し支えはないだろう。仙珠が、竜夢神仙界創造に力を貸した煌竜の血で出来ている、という伝承は知っているわね?」
 確か、兵摩からそんなことを聞いた様な気がする。自信が無いながらも竜聖は頷いた。
「伝承の真偽はともかく、仙珠が煌竜に由来するというのは本当なの。そして仙珠に秘められた本当の力は、『創開(そうかい)』。つまり新たな世界を開く力なのよ」
 あまりにも大きな話だった。だが話の流れ上、悠姫が嘘を言うとは思えない。
 兵摩の方を見たが、彼も静かに頷いた。
「世界を開く、て、そんなことが出来るわけが」
 言いかける言葉を制して悠姫が言った。
「確かに、世界を創る力、言うなれば『創界の力』は誰にでも使えるものではない。畏れ多いことだが、応竜玄帝陛下といえど、それは叶わぬという。しかし世界を創るだけのエネルギーを生み出す力、それをあの宝珠は秘めているの。実際、過去には仙珠の力を自在に操って、我が神仙界においてさえ奇跡とされることを、いともたやすく行った大神仙が、幾人かいたというわ」
 ただしそれは遙か太古、竜夢神仙界が創造されてしばらくの頃だった。それだけの力を秘めた宝珠は、下手をすれば世界を滅ぼす元にもなりかねない。そう考えた当時の指導者でもあった竜皇姫は、仙珠についての資料を処分したという。
 しかしやはりある程度は伝承という形で仙珠のことが漏れ伝わった。それを知った者がやはり仙珠に挑戦し、中にはかなりの力を手にした者もいたという。
「千五百年ほど前に、仙珠は宝物殿の中でも特殊な呪法を施した小部屋に隔離されたという。だが、千岳大帝は秘法を研究し、その呪法を無効化し、仙珠を強奪した」
「昨日もお話ししましたが、仙珠はそれ自体が高いエネルギーの固まりであり、またエネルギーを生み出す存在です。もし千岳大帝がそのエネルギーを引き出すことに成功していたら」
 悠姫のあとを継ぐ様に兵摩が言った。
「奴は神仙界にいた時のように、いや、それ以上の力を持った存在となっているかも知れません」
 真剣な、そして何かの覚悟を決めたかのような兵摩の表情に、今更のように竜聖の体が小刻みに震え始めた。
 本当に生きて帰れるのだろうか。もしかすると、自分はどことも知れぬ異境の地で、果てるのではないだろうか。
 まるで、島影の見えぬ大海に一人放り出されたような心持ちになった竜聖は、思わず悠姫を見た。
 今、彼の運命は確実にこの美しき女神仙が握っている。さっきまでは憎しみさえ感じていたのに、ここへ来て、悠姫を頼りにしている自分に気づく。
『しょうがないじゃないかっ!』
 無理にでも自分を納得させる。
 そんな風に葛藤していると、悠姫が竜聖の周りの空間に、何かの図形を描く仕草を始めた。
「結界みたいな物よ。君の安全が保証されるわ」
 あまり詳しい説明ではなかったが、とりあえず頷いておく。
 何にせよ、竜聖自身に出来ることは何一つないのだ。ここは悠姫たち神仙のするがままに任せた方がいいに決まっている。そう思う間に、悠姫の作業は終わったらしい。かすかだが、周囲が薄い青色のヴェールに包まれているように見える。そのことを言うと、悠姫は少し考えたような素振りを見せて答えた。
「もしかしたら君は、ある程度『見る』能力があるのかもしれないわね」
 別にもったいをつけているわけではないのだろうが、悠姫の説明はいつも中途半端だ。そしてそれをフォローするのが兵摩の役目になってしまっている。
「君が見ているのは、文字通り結界のヴェールです。普通の人には見えません。おそらく君は、悠姫の心臓を持っているために霊的感覚が強化されているのでしょう」
 兵摩の説明に、竜聖はそんなものかと感じた。
「じゃあ、結界を破るわよ。兵摩、準備はいいわね?」
 悠姫の言葉に、兵摩が息をのむ。
 緊張感が見えない刃となって、周囲の空気を張りつめさせているのが、竜聖にも感じられた。
 遂に、戦いの時が来たのだ。


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