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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第33回 第二章・十三
 見渡す限りの木々。まだほのかに明るい空。
 縮地の術で出発した時にはもうかなり暗くなっていたのに、ここはまだ明るい。その明るさは煌々と照り渡る満月のせいだけではなかった。
 どうやら日本ではない様だ。
「私も具体的な地名までは知らないわ。千岳大帝と仙珠の気を頼りに来ただけだから」
 ただ、中国の山奥のどこからしい、とだけ付け加える。
「ここには、いい『竜穴(りゅうけつ)』はない。それなのに、奴はここで己の気を蓄え、仙珠を手にして以降は結界を張って、仙珠の力を完璧に引き出すための儀式を行っている。何故だかわかるか?」
 悠姫の問いは竜聖ではなく、兵摩に向けられた物だった。
 兵摩はしばらく考えていたようだが、溜め息とともに言った。
「申し訳ありません、わかりません」
 それを見ると、悠姫は周囲を見渡していった。
「恐らく奴はここに、新たな竜穴、それも存在するすべての竜穴を制御できるほどの力を備えたものを作ろうとしているのだと思う。もちろん仙珠を使って。そうすれば、人間界を流れる『力場』に変化が生じる。そうなると、たとえ何らかの方法で『道』を回復できたとしても、奴は神仙界から送られるであろう刺客に対して、優位に立つことが出来る。『地の利』を味方につけるわけだからな」
 竜聖には、今ひとつよくわからない話である。兵摩と目が合った時、首を傾げてみせると、彼は簡単に解説してくれた。
「竜穴を制御するということは、そのエリアの自然を味方につけるということです。つまり、すべての竜穴を制御できれば、事実上、奴はこの星そのものを味方につけることが出来るんです。ですが、悠姫」
 と、兵摩は悠姫に向き直った。
「それならどこか既存の竜穴を使った方が早いのではありませんか?」
 その言葉に悠姫は冷たい声で答えた。
「兵摩、あなたいったい何年修行しているの? そんなこともわからないなんて」
 わずかに兵摩が唇を噛むのが見えた。
 悠姫は、不満そうなことを言った割には、丁寧にその問いに答えた。
「すでに存在する竜穴は、ある程度の『くせ』を持ってしまっている。例えば、定期的に特定の儀式を行わなければ、よい『気』を噴き出さない、とかね。それは一つの竜穴だけとは限らないし、周囲の竜脈(りゅうみゃく)や他の竜穴とも密接な繋がりを持っている可能性もあるわ。さらに人々の『念』が与える影響も無視は出来ない。そんな竜穴を調整していたら、その間に刺客が来てしまうわよ」
 合点がいった様に兵摩が頷く。
「それに新たに竜穴を作るという行為は、大地やその周囲の霊的『場』に損傷部位を作るということ。治癒させるために膨大なエネルギーが集まってくる。奴は人間界支配のために、それをも利用するつもりに違いないわ」
 そしてもう一度問う様に兵摩を見た。
「それを実現させるためには、新たな竜穴を作ろうとする場の周囲がどうなっているか、完全に把握しなければならない。つまり、周囲にある竜穴と竜脈のネットワークがどうなっているか、それをも把握しなければならない。奴にとっても大仕事だったはずよ。つまり、今の奴はどんな状態だと思う?」
 兵摩が目を見開き、頷いた。
「もしかすると、自分自身の力の蓄積は、充分ではない?」
 悠姫がゆっくりと頷いた。
「人間界へ来た時点で、奴は相当消耗していた。完全に復調するためには、よい竜穴で癒しても数年は必要なはず。さらにすべての竜穴と竜脈の相関を把握するのにも、かなりの時間を要する。一つの竜穴への刺激がいかなる影響を及ぼすのか、結果が出るまで時間がかかるものだから」
 それらのことを考え合わせると、おそらく千岳大帝はそれほどの脅威にはならないであろう、というのが悠姫の見解だった。
「ただ」
 悠姫は顎に手を当て考えた。
「奴がどの程度、仙珠の力を引き出しているのか、それがわからない」


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