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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第32回 第二章・十二
 この説明に、わずかだが竜聖は矛盾めいたものを感じた。それが何なのか、じっと考えて思い至った彼は、その疑問を悠姫にぶつけてみた。
「俺もその戦いの場にいるんだろ? だったら、俺が持っていても同じなんじゃないか?」
 悠姫が驚いた様に目を見張ったと見えたのは、竜聖の錯覚であったか?
 悠姫は、やはりたいしておもしろくもなさそうに答えた。
「君は、おもしろいところに気がつくな。確かに君の言う通り、同じところにいたのでは、意味がない様に思える。だが、その点は心配ない」
 何となく自信ありげな言い方に聞こえる。彼女が感情らしきものを見せるのは珍しいので、竜聖には妙に新鮮に感じられた。
「案ずることはない。奴は君に、直接手出しできない」
 悠姫は確信しているように言った。
 千岳大帝は竜聖に手出しできない。この言葉の意味を、竜聖は考えてみた。
 しかし考えれば考えるほど、そんなことは有り得ない、という思いが強くなる。
 現に彼は千岳大帝に「殺害」されているのだ。そんな相手に対して、「大丈夫」とは、とても思えない。
 口には出さなかったが、竜聖がそんなことを考えているのがわかったのだろう。悠姫はわかり切っている様に言った。
「奴は一度君に手をかけた。それだけではない、君の家族も、その手にかけてしまっている。だから、奴は君に対して『負い目』を強く感じている。君には直接的な危害を加えようとはしないだろう。千岳大帝とは、そういう男だ。今はまだ、な」
 何を根拠にそんなことを言うのか知りたかったが、何となく聞きづらい雰囲気があった。それは「そういう男だ」と言った時の彼女の言葉に、かすかに心らしきものを感じたからだった。
「これから、君の中にある私の『心臓』との繋がりを強くする。すまないが上半身、裸になってくれないか?」
 悠姫の言うままに竜聖はTシャツを脱いだ。
 悠姫は自分の右人差し指を噛んで傷を作ると、その指を筆に、己の血を墨として、竜聖の胸に複雑な模様を描いた。悠姫の話では、この呪符を媒介にして、竜聖の中の心臓と悠姫が繋がるとのことだった。
 確かに、符が完成し、悠姫が小さく呪文を唱えるのに合わせて、ほんの少し体が脱力するのを竜聖は感じた。
 竜聖がシャツを着ると悠姫が言った。
「さあ、準備はいいか?」
 そして竜聖と兵摩、交互に見やる。
 兵摩とは向き合う格好になっているので、竜聖には兵摩が悲愴とも思えるほどの決意を、その顔に浮かべているのを見る事が出来た。
 今まで何となく流されてきた様な感じがしたが、兵摩の表情を見て竜聖も事の深刻さを理解した。
 そうか、自分はこれから戦いに行くんだな。生きて帰ることが出来るか、それとも……。
 そう、これは本物の戦いなのだ。
 もっとも竜聖自身が戦うわけではないし、彼は「安全」だと悠姫が断言している。にも拘わらず、彼の心には様々な思いが渦巻き、とりとめもなく浮かんでは消えた。
 まるで死地に赴く兵士の様に。


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