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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第30回 第二章・十
 どこをどうやって帰ったか、実は竜聖ははっきりと覚えていない。ただ、電車から降りたあと、気が付くと件の空き地に来ていた。
 空き地の入り口に悠姫と兵摩の二人が立っている。
 兵摩は竜聖の姿を認めると、訝しげに眉をひそめた。
「竜聖君、どうしたんですか、その格好は!?」
 言われてから初めて竜聖は自分の格好をじっくりと見た。
 Tシャツは汚れている上にところどころ破れている。露出した肌は、打撲痕や擦りむいた傷、流れた血の跡が痛々しかった。光度の高くない街灯の明かりの下ということもあるのだろうが、ひどくみすぼらしく、また惨めに見えた。
 こんな格好で自分は街の中を歩き、電車に乗り、ここまで歩いてきたのか。すれ違う人はどう思っただろうか。
 そう考えると、思わず自虐的な笑みが漏れる。
 悲しいより、滑稽で仕方がない。
『これでじゃまるで、風車に戦いを挑んだドン・キホーテじゃないか』
「喩えが違うな」
 自分で自分のモノローグに突っ込みを入れる。そして、また笑った。しかし今度はそれが途中から嗚咽に変わった。
 悔しさがあふれて止まらない。
 今、ここで二人の神仙にあった途端、さっきまで忘れていた悔しさが再び竜聖の心の中に染み出していた。
 涙が止まらない。
「竜聖君」
 たまりかねたのか兵摩が何か言いかけたその時。
「来ると思っていたわ」
 冷徹な悠姫の声がした。
 顔を上げると、悠姫が黙ってこちらを見ている。その表情からは、竜聖が来たことを嬉しく思っているのか、それとももしかしたら竜聖の様を見て蔑(さげす)んでいるのか、まったくわからない。
 能面の様な、という形容があるが、そんなものは超越していた。
 全く表情がないどころか、感情さえ読めない。
 まさに「人形」としかいえない。
 いや、人形ならまだこちら側の感情や思いを反映して表情が違って見えることがある。
 しかし、彼女はそれすら拒むほどの「虚無」しか感じさせない。それはまるで初めから感情など知らないとしか思えないほどだった。
 これにはさすがに兵摩も何か思うところがあったらしい。少し逡巡しながらも、強い口調で言った。
「悠姫、もういい加減にしてください! 彼は今傷ついているんですよ? せめて……」
 皆まで言わせず悠姫が言った。
「治癒の呪をかければいいのね?」
 この言葉に、兵摩が苛立たしげに応えた。
「そんなことを言っているんじゃないんです! 悠姫、本当にどうしてしまったんですか? 以前のあなたなら、こうじゃなかった。もっとあたたかく、相手を思いやっていた」
「いい加減にするのはあなたよ、兵摩。私、言ったわよね、『幻想は捨てろ』って」
 一方の悠姫は、相変わらず動じる気配はない。
 兵摩は両の拳を握りしめ、口を真一文字に結んでいる。


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