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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第3回 第一章・二
 大男は竜聖に向かい、恭しく礼をした。だが、その行為すらも竜聖には理解不能な「動き」なのだ。
 やがて霧に霞むようにして大男は消えていった。
 だが竜聖は何も感じない。
 彼の思考はもはや停止状態にあり、目は何かを映し、耳は何かの音をとらえても、それを受け取る脳はいっさいの判断を放棄していたのだ。
 否。放棄せざるを得ない状況にあったのだ。彼の脳には、もはや生命活動を維持し得るに足るだけの血液量が、圧倒的に不足していたのだから。
 だから、竜聖の前に、入れ替わりのように世を超越する美貌の女が現れても、彼の目はただ、その姿を映すだけであった。
 体が冷えていく。それは外から冷やされるのではなく、体から熱が抜けていくが故の冷却。目の前では、無数の星が乱舞している。
 そして竜聖の意識は暗い闇の底へと沈んでいった……。

 高校に進学した頃から、竜聖が繰り返し見ている夢がある。
 たぶん五歳か六歳の頃。場所は両親がまだ二人とも生きていた頃に住んでいたところだろう。季節は夏。しかし蝉時雨がうるさくないから、初夏かも知れない。
 夢の情景は、彼が両親の声を背に受けながら、家の近くの川辺へと降りてゆくところから始まる。
 川辺に行くと、そこにはこの世のものとは思えないほど綺麗な女性が立っている。栗色の真っ直ぐな髪は腰を過ぎるほど長く、その艶はまるで何かの宝石を溶かして染めたのではないかと思えた。身長は百七十センチぐらいだろうか。
 顔立ちは猫科の猛獣を思わせる。切れ長の目、柳の眉、すっと通った鼻筋、ほのかに紅い唇。何よりしなやかな、そして隙のないスピード感を感じさせた。
 年齢は、今の竜聖より三つか四つぐらい上だろうか。少なくとも年下には見えない。今年で二十一歳になる従姉妹の亜津紗(あづさ)と同い年ぐらいだろう。
 彼女の服装は巫女装束に似てはいるが、ずいぶん変わっていた。胸元は大きくはだけ、両の乳房がはち切れんばかりに白い顔を覗かせている。その頂上である突起は見えないものの、その形はわずかながら服の陰影で見て取れた。腹部には黒い光沢のあるコルセットに似た幅広のベルトを巻いている。小さな宝石か飾り玉を埋め込んでいるらしく、陽の光を反射して何かのチャンピオンベルトに思えた。
 履いているのは緋色の袴のようだが、これも変わっている。何せ紫色の下着が丸見えなのだ。というより、本来下着を隠すべき位置に袴の布地がない。袴は太股の中程から始まっているのだ。そして黒いひもで紫色の下着と繋がっている。さらによく見ると下着の上の方からも黒いひもが伸びて、ベルトに繋がっていた。それとは別に脚の外側の部分には袴の布地があって、それは直接黒いベルトに繋がっていた。
 忍者がつけるような黒光りする腕甲をつけ、同じく黒光りする首輪のようなものをつけ、金色に輝く円盤の付いた首飾りを着けている。
 変わっているというより、変であった。巫女装束としてはあまりに淫らで背徳的で。神に対して無礼以外の何物でもなかった。
 その女性は静かに竜聖に近づき、何かを言った。それが何かはよく聞き取れない。そして彼のTシャツをまくり上げ、白魚のように細くて白い指を彼の胸に這わせる。そして再び何かを呟いて…。


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