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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第28回 第二章・八
 そして行った先は、街灯の光も届かぬ路地裏。
 転がるポリバケツ、散乱するゴミの数々。壁一面の卑猥なイタズラ描きに、壁際から路面にかけてぶちまけられた汚物。
 まるで絵に描いたような「路地裏」だ。あの人通りの多い表通りから、ほんの一、二本はずれただけでここまで異質の世界になるとは、想像できない。
 風通しが悪いせいで周囲に溜まっている匂いの内、正体がわかったのはタバコと、すえた様な腐敗臭だけだった。あとは何かの薬物でも混ざった様な異様な匂いや、下品な香水の様な匂いなどなど。
 ただこの場にいるだけでも吐き気をもよしてくる。
 一分でも長くこんな場所にいるのはごめんだ。そんな気持ちで竜聖は、男たちの方を睨んだ。
「上等じゃん」
 竜聖と目が合うと、茶髪を逆立てた上級生がそう言いながら、歩み寄る。そしていきなり竜聖の胸ぐらを掴むと、その腹部に軽くジャブを放った。
 胃液が逆流するような感じとともに喉が熱くなる。だが、不思議なことに痛みはなかった。
 ほんの少し呼吸を整えると、竜聖は目の前の男に、冷たく一言言った。
「お返しだ」
 それと同時に、やや手加減気味に男の腹へ拳を打ち込む。しかし、手を軽く打ち合わせるよりもはるかに切れのない音しかしない。それどころか、パンチを入れた竜聖の方が拳に軽い痛みを感じた。
 見ると、男が今にも鼻歌を歌い出しそうな様子で、片方の口の端だけ吊り上げ、鼻で笑っている。
「じゃ、次、俺の番ね」
 左手で竜聖の胸ぐらを掴んだまま、歌う様な口調で男が言った。
 その直後、男の堅い拳が、竜聖の左の頬に炸裂した。まるで打球を頬に受けた様な衝撃とともに、首が一回転するかの様な錯覚を覚えた。
 殴るのと同時に男が左手を離したのか、それとも離れたのか。竜聖は勢いに乗って、数歩よろけて尻餅をついた。
 口の中を切ったらしく、鉄の味が一気に広がる。それだけではなく、鼻からも血がたれ流れ始めた。思わず手の甲でぬぐうが、止まる気配はなかった。
 ただ不思議なのは、それでも大して痛みを感じなかったこと。だが、怒りは竜聖の心の奥底から、マグマの噴出の如く、わき起こった。
 手加減など不要だ。
 心の中で自分に言い聞かせると、竜聖は立ち上がり、ダッシュとともに男の顔めがけて右の拳をたたき込んだ。……はずだった。
 渾身ともいえる一撃は、男に片手で、しかも鼻歌交じりに受け止められていたのだ。
 竜聖の全身に衝撃が走った。
 砲丸をエリアの外まで、放り投げるほどの膂力から繰り出されるパンチを、こんなに簡単に受け止めるなど、普通では考えられない。さてはダッシュをつけた際に体勢が崩れ、勢いを殺したかと思い、竜聖は今度はそのまま拳を放った。
 だが、またも簡単に受け止められてしまった。
 焦りが生まれる。それと同時に、今頃になって殴られた痛みが、まるで滞っていた血が通い始めたように、広がり始めた。
 まずい!
 直感的に竜聖は感じた。
 逃げなければ、この程度ではすまない怪我をする。
 一瞬で結論を導き出した竜聖は、振り向いて走り出した。
 短距離走なら自信がある。つい一昨日も体育で、超高校級の走りを見せたばかりだ。
 だが、ほんの十メートルも行かないうちに竜聖は男の一人に捕まった。最初、後ろから自分の肩を掴んだのが何者かわからなかった竜聖は、それがさっきまで自分が相手をしていた男たちの一人だと知って、愕然とした。
 男はよく聞き取れない怒号を発しながら、竜聖を引き倒した。そして竜聖は男たちに、足蹴にされ、馬乗りにされ、拳を浴びせられた。
 竜聖はなす術(すべ)もなく、防御するのが精一杯で、ただ蹂躙されるがままになっていた。


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