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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第27回 第二章・七
 午後六時。
 自宅にいても気分の晴れない竜聖は、電車で十分ほどの隣町に来ていた。確かこの街には、従姉妹の亜津紗が住んでいたはずだ。しかし彼の目的は、その従姉妹に会うことではない。
 なぜこの街に来ようと思ったか、よくわからない。ただ、自分の住んでいる町だと、クラスメートに出会ってしまうかも知れないと思ったことは確かだった。そして、もしかするとあの空き地に行ってしまうかも、と思ったことも。
 確かに腕が怪物になってしまったことについて、彼は悩んでいた。しかし一日が過ぎようとする今、あれはやっぱり寝ぼけていたせいで見た、一瞬の悪夢か幻覚だったのではないかと思えるようになっていたのだ。
 ならば嫌な思いをしてまで、あの女神仙に協力してやる必要はない。兵摩とかいう神仙はもと人間だったからか、竜聖に対して好意的なようだが、それでも悠姫にあそこまで熱を上げているようでは、いつ竜聖のことを「アイテム」扱いするか知れたものではない。
 もうあの二人は信用しない方がいいかも知れない。
 そう考えて気分を切り替えようとしても、一向に苦々しい気分は晴れない。
 気晴らし、というわけでもないが、彼はあちらこちらをぶらついていた。
 特に目当ての買い物があるわけでもないので、デパートの中は素通り、本屋でもただ雑誌をめくるだけ。ゲームショップでも、画面をただ眺めているだけだった。
 そんな感じで無軌道に歩いていたからだろうか。やや人通りの多い歩道で彼は同い年ぐらいの男の肩にぶつかってしまった。
 完全に竜聖の不注意だったが、何となく謝る気になれず、彼はそのまま立ち去ろうとした。
「おい」
 背後から声がかかる。
 面倒くさいと思いつつ、振り返ると、三人組の男たちと目があった。
 一人は竜聖と同い年ぐらいだが、少し身長は低い。茶髪で、タンクトップ。つぎはぎだらけのジーンズをはいている。あとの二人は上級生といった感じだろうか。いずれも茶色の髪を立てたり、顎髭を無精に伸ばしたり、唇にピアスをしたりして、どちらかというと「とがった」印象を受ける。二人とも竜聖より背が高く、百八十センチは下らない様だ。
「何か?」
 心底、面倒に思いながら竜聖はそっけなく言った。
 声をかけた男は、明らかに挑発するような口調で言った。
「『何か?』じゃ、ねえだろ? 当たったんだよ、肩が、俺のに」
 言いながら、大げさに自分の肩を自ら叩いてみせる。
 黙ってこのパフォーマンスを見た竜聖は、相手の言いたいことがわかっていながらも、わざと言った。
「それで? 俺にどうしろと?」
 同い年の男は舌打ちの音を大きく立てて、イライラしながら言った。
「言うことがあるだろ、言うことが?!」
 あまりにも陳腐で、予想していた通りだった言葉に、竜聖は半ば呆れながら、答えた。
「今度から気をつけろ」
 挑発しようと思ったわけではない。だが、自然にこの言葉が竜聖の口から出てしまった。
 それが気にさわったのだろう、同い年の男の眉が急につり上がった。
「人にぶつかっといて、ンだあ、その言い草ァ?!」
 上級生らしき男たちも、三白眼で竜聖を睨みつける。
 こういう手合いは相手にしないに限る。そう考えた竜聖は無言で男たちに背を向け、歩き始めた。
「待てや、コラ!」
 まるでヤクザ映画のようなセリフを吐いて、男の一人が竜聖の肩を掴んだ。振り向きざま、竜聖はそれを払いのける。
 手を払いのけられた上級生は一瞬虚をつかれたような表情をしたが、すぐに眉間にしわを寄せ、低い声ですごんだ。
「ちょっとそこまで、顔貸せや」
 ため息を漏らしつつ、竜聖は男たちのあとをついて行く。周囲の通行人は関わり合いになりたくないのだろう、竜聖たちに道を開けるかの様に左右に割れていく。
 少し痛めつければ、いいだろう。さすがに「本気」を出すわけにはいかないが、いつもは無意識に抑えている力を、ほんの少し解放してやれば、この程度のチンピラならわけないはずだ。
 男たちのあとを、そう思いながら竜聖は歩いた。


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