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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第26回 第二章・六
 しかし、悠姫はそんな竜聖の心配など意に介した様子など見せず、話した。
「私はあのあと、千岳大帝を追った。幸い仙珠は相当、特殊で強い『気』を発していたから、かなり時間が経っていたにも拘わらず、奴の痕跡を見つけることができたわ。もっとも、以前から目をつけていた場所があったから、たとえ奴を見失っても問題はないと思っていたのだけれど。ただ、そこには強力な結界が張ってあった。今の私ではそれを破ることは叶わない。心臓を君にあげた、私の力ではね」
 特に嫌味がこもっていたわけではない。それでも竜聖の心に罪悪感がわき起こる。
「俺が悪いって、言いたいのか?」
 そう叫びたくなるのをこらえて、竜聖は先を促した。
「……それで……?」
「残念ながら私の心臓が再生するまでには時間も力も足りない。だからといって、君に『心臓を返せ』なんてことは言わないわ」
 一言一言が毒を含んでいるように竜聖には感じられる。実際は被害妄想なのだろうが、そう割り切ることもできない。
「俺に、どうしろと?」
 だんだん、何かの犯罪者に脅されている心境になってきた。焦りと怒りばかりが先走り、冷静な判断ができそうにない。こんな時、兵摩が側にいたらうまく取りなしてくれるのかも知れないが。
 どうすれば兵摩と会えるのか、その約束事を決めておかなかったことを今更ながらに後悔した。
 悠姫は無表情ながらも、まるで値踏みするように竜聖を見ている。
 竜聖には、それがカツアゲをされる直前の品定めをされているように感じられた。あまりいい気分ではない。はっきりいって不快だ。それは悠姫という女性に好印象を抱いていないが為の反応でもあった。
「君は何もする必要はないわ。むしろ何もしないで」
 いきなり肩すかしを食った気分だった。手伝えと言っておきながら、何もするなとはどういうことか。
「君はただ私の近くに立っているだけでいい。要は、擬似的に、君の中にある私の心臓と私とを繋ぐことができればいいのだから。ただ、君がある程度の範囲内にいる必要がある。結果的に君の身に『巻き添え』という形で、危険が及ぶことも有り得る。その為に、君の了承がほしかった」
 その「危険」というのがどの程度のことなのか、竜聖は聞いてみた。
「最悪の場合、死ぬわね」
 事もなげに言い放つ悠姫だが、竜聖にしてみれば冗談ではない。遂に我慢の限界に達した竜聖は、立ち上がって激昂した。
「いい加減にしてくれ! そもそもあんたらの都合なんじゃないか! だいたい、あんた、何なんだよ! 人は神仙よりも下なのか!? 俺たち人間は、あんたたちに見下されるだけの存在なのか!?」
 幼い日、初めて悠姫にあった時から、おそらく心の中にあった彼女への感想。昨日の彼女の言葉。そして今の彼女との会話。
 抑えきれない感情が言葉となり、竜聖の口から放たれた。
 沈黙の時間は、ほんの数秒。悠姫も立ち上がる。身長百七十三センチの竜聖と、ほとんど変わらない。改めて見ても、悠姫は長身でメリハリのある素晴らしいプロポーションをしていた。しかし、だからといって昂ぶった感情が好意に切り替わることはない
 彼女はガラス細工のような透明感のある瞳で竜聖の瞳を見ると、静かに言った。
「その気になったら、今夜、例の空き地に来て」
 それは命令にさえ聞こえる、冷たい口調だった。
 悠姫が部屋を出る時も竜聖はそこに立ったままだった。彼女は律儀に表玄関から出て行ったようで、ドアの開閉する音が竜聖の耳に届く。
 小さく舌打ちして竜聖は椅子に座った。
 口の中に、何とも不快な苦みが充満している。カップに残ったコーヒーを口に入れたが、しばらくとれそうにもなかった。


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