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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第24回 第二章・四
「いい家に住んでるわね」
 悠姫は玄関に入るなりそう言ったが、それが本心かどうか、それ以前に関心を持っているのかさえ疑わしいほど機械的な声音だった。
「社交辞令でも、もっと心を込めた方がいいですよ」
 竜聖としては皮肉を込めたつもりだったが、悠姫には届いてはいないのが明らかだった。冷たい声で彼女は言った。
「今度からは気をつけるわ。それから、私に敬語は使わないで。堅苦しい気分になっちゃうから」
 自分こそ心がないような振る舞いをしていて、堅苦しいも何もないのに、と竜聖は思ったが、口には出さなかった。
 竜聖は悠姫をリビングに案内すると、自分は鞄を床に置いて、キッチンへと向かう。
「この家は、死んだ父さんが『仕事場に近いから』ていう理由だけで建てた家なんだ。寝に帰るだけだったらしいから、二階建ての割りに部屋数も多くないし、機能的ってほどでもない。でも俺一人が住むのには充分だよ。人手に渡らずに残ってたのは、伯父さんのおかげなんだけどね」
 リビングに続いたキッチンでコーヒーメーカーをセットしながら、竜聖は言った。とりあえず彼女は客なのだ。神仙がコーヒーを飲むかどうかわからないが、最低限の礼儀は見せておきたい。
 しかし竜聖の行為をあっさり無にする声が届いた。
「『コーヒー』とかいうものならいらないわ。私はあまり好きじゃない」
 一瞬、竜聖の心に怒りの感情が湧いた。しかしそれを押し込め、代わりのお茶を淹れる。 彼の心の中には、ある葛藤が渦巻いているのだ。なるべくなら彼女のご機嫌を損ねるようなことはしたくない。
 とりあえず茶とコーヒーをリビングに運んだ竜聖は、悠姫と向き合うように座った。しかし悠姫の服装が気になって、正面を向けない。自然と対面のような格好になってしまう。
 それを不自然に思わないのか、悠姫はそのことについて何も口を挟まない。
 そこまで無頓着にされると、かえってこちらの心理を見透かしているのではないかという疑念も湧いてくるが、面と向かっては聞けない。
 かくして竜聖が複雑な思いでコーヒーをすすり、悠姫がお茶を口にすること数分。まったく無言だった二人の間で、話の口火は悠姫が切った。
「何か『異変』が起こったりしなかった?」
 具体的には何も言っていないのに、この言葉だけで竜聖の体を電撃が駆け抜ける。こちらから振ろうとしていた話題だ。
 竜聖のそんな様子が伝わったのか、悠姫が静かに言った。
「やはり何かあったのね。よかったら、聞かせてちょうだい。何とかできると思うから」
 竜聖は、この際悠姫に話すことにした。最初は兵摩に相談するつもりだったのだが、もしかすると彼には会えないかも知れない。そう考えると、今確実にこの場にいる神仙に相談する方が得策だと思ったのだ。
 だが、一つ心配事があった。先日の彼女の態度から考える限り、この女性が竜聖に対して好い感情を持っているとは考えにくい。相談しても無駄ではないかという思いが鎌首をもたげていたのだ。
 かくして話すべきか話さざるべきか悩んでいたのだが、彼女の方から話をしたのなら、何らかの対策を講じてくれるだろう。それが竜聖の結論だった。


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