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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第21回 第二章・一
 夢を見ていることは明らかだった。
 時間は夕暮れ時だろうか。建物の窓から光りが漏れる。
 ふと遠くを見た。
 緑あふれる自然の中にありながらも近代的な建物が建ち並ぶ。しかしそれは窮屈で、閉塞感と退廃しか感じさせない都会とはまるで違っていた。そしてそのイルミネーションは茜色に染まる空とコントラストをなし、まるで映画のワンシーンを見るようであった。
 踏みしめる大地は、アスファルトというよりは自然に硬質に固まった土のような印象を受ける。道を走る自動車は、いかなる動力なのか静かで、しかもタイヤがない。
 街並みを見回していると、なぜか不安感がわき起こる。車は安全運転だし、歩いている道も広くて清潔だ。何を心配しているのか。
 そういえば道行く人は皆、竜聖より背が高いようだ。時折見上げると、明らかに竜聖より年下とおぼしき少女と目があったりする。
 そのうち竜聖はこれが「夢の中の自分」の視点であり、感情なのだと気づいた。
 夢の中で、どうやら彼は「小さな女の子」になっているようだった。おまけに視点の移動などは竜聖の思うとおりにならない。
「夢の中の自分」は、竜聖自身とは別人格を有しているようだ。
 しばらく歩くと地面が変わった。土とは違うが、やはりコンクリートといった感じはしない。磨き上げられた大理石といった印象さえ受ける素材のようだった。
 今いるところは大きな建物の正門玄関前だ。ちょっと見ると竜聖の住む町にあるデパートのような感じだが、至ってシンプルな造形で、どこかの事務所という感じも受ける。
 しばらく待っていると、玄関から、一人の男が現れた。
 その男を見て、竜聖は仰天した。
 間違いなくその男は千岳大帝だったのだ。鍾馗のような服装ではなく、どちらかというと漫画なんかで見るような「チュニック」や「トーガ」という紀元前ローマ時代のゆったりした服装に似てはいたが、その服の上にある顔は千岳大帝のものに相違なかった。
 だが、「夢の中の自分」は千岳大帝に対して憎しみの感情など微塵も抱いていない。それどころか、胸の中に嬉しさがあふれてくる。そしてそんな「自分」を見る千岳大帝の表情にも、厳しさはかけらもなく優しさがあふれていた。
「夢の中の自分」が何かを話す。すると、千岳大帝も目尻を下げてこう言った。
「そうか、一人でここまで来たのか。道に迷ったりしなかったか? 一人で不安じゃなかったか?」
 その言葉と同時に千岳大帝が「夢の中の自分」の頭をなでる。
 たまらない「嬉しさ」と「恥ずかしさ」が胸に満ちる。
 さらに「自分」が何かを話す。
 それを聞く千岳大帝は、心の底からうれしそうに頷く。
「そうか。それなら『縮地(しゅくち)』の術ももうすぐマスターできそうだな」
 ますます胸の中が嬉しさで満たされる。
 そしてまた「自分」が話す。何かもどかしいものを感じながら。
 あれも話したい、これも話したい。話したいことはたくさんある。なのに、うまく話せない。もどかしい。二つのことをいっぺんに話せたらいいのに。
「夢の中の自分」はこんな風に思いながら、いろんなことを話した。
 今日の出来事、昨夜の出来事、昨日の出来事、そしてもっと前の出来事。
 それらのいちいちを、千岳大帝は目を細め、嬉しそうに聞いていた。
 新鮮な驚きが竜聖の胸にわき起こる。
 自分の両親を殺し、さらには悲愴な決意を表情に浮かべて竜聖に仙珠を埋め込んだ、あの千岳大帝と同一人物なのだろうか、という疑問さえ湧いてくる。
 しばらく会話を交わしたあと、千岳大帝は「夢の中の」竜聖の頭に手を置いて言った。
「儂はこれからまた、鳳麗宮へ戻らねばならん。今日、この街の役所へは、中央から護符をお届けに上がっただけだからな」
 その言葉に、胸の中に寂しさや悲しさがわき上がる。
 千岳大帝もこちらを見て、悲しげに言った。
「すまんな。これも儂の勤めなのだ。だが、来月には戻れる。そうしたら、またしばらく一緒に過ごせるぞ」
 笑顔を作る千岳大帝だったが、こちらの心は晴れない。
 千岳大帝は悲しそうな表情でしばらくこちらを見ていたが、口元に笑みを浮かべて言った。
「こんな遠くまで一人でやってきたお嬢さんが、無事に家まで帰れるか心配だ。おじさんが送り届けてやろう」
 竜聖は自分の心が、嬉しさであふれるのを感じた。そこには幼い頃、街から父が帰ってきた時に感じたような、懐かしさもにじんでいた。


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