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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第20回 第一章・十九
 兵摩はこの言葉に満足げに頷いた。そして、こう付け加えた。
「もう一つ、君に言っておかねばならないことがあります」
 改まった口調に、竜聖も思わず姿勢を正した。
「君の胸には悠姫の心臓があります。これは君の心臓が再生するまでのサポート的なものであると同時に、君の心臓が再生するためのエネルギー源でもあります。もっとも、エネルギー源とはいってもあくまで心臓再生に必要なエネルギーを提供するだけなので、君に神仙のような術が使えたり、空を飛べたりというようなことはありません」
 悠姫が行った蘇生呪術は、自らの心臓を相手の体に埋め、それをエネルギー源にして体の再生能力を高め失われた臓器、この場合は心臓を再生させるというものである。
「しかし神仙の心臓です。普通の人間には耐えられないでしょう。つまり、君には『副作用』が現れるおそれがあります」
 この言葉に、竜聖の胸に言いしれぬ不安がわき起こった。「神仙の心臓」という、全く未知の物がもたらす副作用とは、一体どんなものなのだろうか。見当さえつけられず、竜聖は震える声で先を促した。
「副作用、て、どんな?」
 兵摩は沈痛な面持ちで首を横に振る。
「はっきりとはわかりません。ただ、かつて神仙の血をほんの数滴飲んだだけなのに、恐ろしいほどの本能の衝動に駆られ、罪を犯してしまった者を、僕は知っています」
 瞳に深い憂いを浮かべ、兵摩は竜聖を見る。その瞳には哀しみと同時に、「その副作用を抑えられるか?」という問いかけも含まれているように竜聖には感じられた。
「『後戻りできない』と言ったのは、こういう意味です。君はもはや普通の人間としての生活は送れないでしょう。少なくとも、君自身の心臓が再生するまでは」
「それは、いつまでなんですか?」
 やっぱり声が震える。しかしこればかりは竜聖の思うとおりにはならない。
 しばらく竜聖の顔を見てから兵摩はうなだれて答えた。
「すみません。僕にはわかりません。もしかすると明日かも知れないし、ひょっとすると一年先かも知れない」
「そんな無責任な!」
 思わず声を荒げた竜聖だったが、
「僕だって、できることなら一刻も早く!」
 と、兵摩も身を乗り出した。
 お互い、平静ではないことに気づいたようで、気まずい空気が流れる。
 先に口を開いたのは兵摩だった。
「申し訳ありません、取り乱して。でも、本当にわからないんです。こんなことは初めてのことですし、僕もまだまだ修行中の身ですし。こちら側の都合に、君やそのご家族の方々を巻き込んでしまったことは重々承知しています。だから、できる限りのことはするつもりです。困ったことがあったら頼ってください」
 真摯な態度と言葉に、竜聖も不機嫌な面持ちながらも頷くよりなかった。しかし、これ以上ここにいるつもりもない。何より不愉快だ。
 竜聖は、兵摩に帰宅の意志を告げた。兵摩も、何も聞かず頷いた。
 気まずい雰囲気だけが、その場を支配していた。


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