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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第19回 第一章・十八
 この言葉に兵摩がため息を漏らした。
「聞いてたんですか。ええ、確かに彼女は、君を『捨て置くべきだった』といいました」
 兵摩の話によると、彼は竜聖を見捨てていこうとした悠姫に抗議した。「この少年を利用するだけなら、千岳大帝と同じです」と。そのあと彼は自身で蘇生の法を行おうとしたが、未熟者ということで悠姫に止められた。しかし、悠姫も完全な蘇生呪術は使えないということだったので、自分の心臓を自らえぐり出し、それを竜聖の体内に埋め込んだ。そのあとで竜聖自身の心臓が再生するように「呪」をかけたのである。
 そして、それこそが竜聖が一番知りたかった答えでもあった。
「君の中には悠姫の心臓があります。霊的に見ると、心臓には心が宿ります。つまり君の中には悠姫の心の一部があるんです。その中には彼女の記憶も含まれます。その記憶が血に乗って、君の中を巡る。そのうちいくつかが君に『消化』され、『記憶』になったんです。君が、悠姫が消えるところを見ても疑問に思わず、僕のことも以前から知っているような気がしたのも、そのせいだったんです」
 心臓の中に記憶物質が含まれているという説がある。これは人間だけでなく神仙でも同じようだ。
「経緯はどうあれ、彼女は自らの心臓を使って君を蘇生させました。悠姫は確かに不老不死に近い存在ですが、まだ完全ではありません。心臓をえぐり出せば、かなりの負担になるはずです。それを承知で彼女はそういう行動をとった。本当に彼女は優しい女性なんです。今、あそこまで冷酷なのには、きっと何か訳があるはずなんです!」
 兵摩は目を伏せた。その肩が力なく下がる。
 見ていて痛々しいほどであった。
 しかし、と竜聖は思う。確かに兵摩は悠姫に対して特別な想いを持っているのだろう。だからその人について他人に誤解してほしくないというのはわかる。だが、それを強調するように竜聖に語る意味が、果たしてあるのだろうか。
 そのことを竜聖は尋ねることにした。
「あの、そこまで俺に、その悠姫って女性のことを話す必要があるんですか?」
 兵摩がゆっくりと顔を上げた時、一瞬怒っているのではないかと思うほど、彼は深刻な顔をしていた。しかしすぐに取り繕うように表情を穏やかなものにかえて答えた。
「もし君が悠姫のことを否定的にとらえていたら、君の『体霊(たいれい)』、つまり精神ではなく肉体に宿る霊、『本能』に近いものですが、この体霊が悠姫の心臓を拒絶する可能性があるんです。そうなったら、せっかくの悠姫の行動が無駄になってしまう」
 そんなものなのだろうか、と竜聖は漠然と思った。もしそんな事情があるなら、仙珠を埋め込まれた時は体霊は拒絶しなかったということだろうか。
「確かに、あの時千岳大帝のことを悪人だとは思わなかったよな」
 呟いてから、竜聖は兵摩の視線に気づいた。何となく竜聖を非難しているようにも見える。兵摩は少しばかりため息混じりに言った。
「当時の君はうまく千岳大帝の『術』と『演技』に惑わされただけです。体霊は本能に近い物ですが、本能そのものではない。ある程度『思考』や『理性』に支配されますから、君自身がそう思ってしまえば、その通りになってしまいます。もっとも、仙珠自体、神秘な力を持っていますから、こちら側の都合などは一切関係ないのかも知れませんが」
 つまり、あのときは千岳大帝にまんまとだまされたがために、体霊は仙珠を受け入れたということである。
 この説明に、竜聖は納得して頷いた。
「わかりました。とりあえず悠姫とかいう女性はとても優しい女性(ひと)なんだってことにしときます」


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