小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第18回 第一章・十七
 兵摩の表情が沈む。兵摩の言葉に悠姫はあっさりと言ったのだ。
「もし彼を助けに入ったところを千岳大帝に見られたらどうするの? 奴に我々が来ていることを知られたら、動きがとりにくくなるわ」
 さすがに悠姫のこの言葉には承服できなかった兵摩は、万が一に備え、仙珠の波動が乱れた時などは竜聖の様子を確認しに来たという。結果として、彼はこの十年間、悠姫とはほとんど別行動を取り、一年に二、三度情報交換のために会う程度だったという。
「思ったより仙珠の結界は完璧に近い物でした。並の妖魔なら、君の存在に気づくことさえありませんでしたよ」
 また幸か不幸か、強力な妖魔は、むしろ竜聖を避けていた「ふし」があったらしい。
「どうやら仙珠には我々が思いもしない力があるようです」
 そこまで語ると、兵摩は茶を口に運んだ。そして、少しためらいがちに言った。
「竜聖君、君は悠姫のことを、どう思いますか?」
「え? 悠姫、て、あのものすごく綺麗な女性のことですよね?」
 あまりに唐突な話に、一瞬竜聖はとまどったが、兵摩の眼差しが真剣なことに気づき、少し姿勢を正すようにして答えた。
「すごく綺麗な女性(ひと)ですよね。スタイルもいいし。着ている服は、ちょっと、その、アレだけど」
 竜聖は耳まで熱くなるのを感じた。ヤング系の雑誌などで淫らな服装をしたモデルのグラビアなどは見たことがあるが、実際に着ているのをこの目で見たのは初めてだった。何となく、自分が悪い遊びをしているのではないかという背徳感と同時に、純粋に性的な興奮を覚える。
「すごく似合っていると思いますし。でも、なんかちょっと、冷たいかな? 言葉とか、態度とか、人を人と思ってないような感じがします」
「それは違います!」
 間髪入れず、身を乗り出して兵摩が叫んだ。叫んでから、兵摩は自分が取り乱したことに気づいたのか、照れ隠しのように咳払いをした。
「すみません、興奮してしまいました。竜聖君、悠姫は、本当は情の細やかな素晴らしい女性なんです。一度死んだ君が生きていられるのも、彼女のおかげなんですよ」
 兵摩の言うことは、さっきからわからないことが多いが、この言葉は特に謎だった。
「一度死んだ、て、どういう意味ですか?」
 記憶にある限り、竜聖は死んだことはないはず。小学三年生の頃、事故に遭って死にそうな目にあったことはあるが、その時も運良くかすり傷程度ですんだ。
 今思い出した幼い日のことも、死んだのは両親だけだったはず。
 兵摩は竜聖の疑問に答えるように、丁寧に説明した。
「千岳大帝に再会したことは覚えていますね? その時、君は奴に仙珠を取り出されているんです。君の服が血まみれになって破れているでしょう? それは奴が君の胸から仙珠をえぐり出した跡なんです」
 竜聖はあらためて自分の服を見た。言われてみれば、胸の中央あたりの破れ方がひどいようだ。
「仙珠は君の心臓と同化していました。仙珠を取り出すということは、すなわち君の心臓をえぐり出すということでもあるんです」
 心臓をえぐり出されて生きていられるはずなどない。「一度死んだ」というのはこのことだ。
「千岳大帝の動きに気づいた僕たちが駆けつけた時、すでに奴は逃走したあとでした。しかし悠姫は、奴の追跡を後回しにしてでも君を蘇生させたんです。自らの心臓を使って」
「あれ?」
 思わず竜聖は首を傾げた。
 今の兵摩の話と、自分が見聞きしていたこととの間に、少し食い違いがあるような気がする。
「確か、あの女性(ひと)、やっぱり俺を捨てていくべきだった、とか何とか言ってませんでしたっけ?」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 25