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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第17回 第一章・十六
 竜聖は、例のログハウスの床に脚を投げ出して座り込み、両目から涙を流していることに気づいた。
 そして側に兵摩がしゃがみ込んで、竜聖の瞳をのぞき込んでいる。その瞳は冷たい光を宿しているように感じたが、竜聖自身、気分が沈んで不安定だったから、気のせいだと思うことにした。
「思い出しましたね、十年前のあの日を」
 静かに言った兵摩の言葉に、竜聖は力なく頷いた。
 兵摩がため息を漏らす。
「すみませんでした。君に記憶を取り戻してもらうため、お茶の中に少し仙薬(せんやく)を入れました。これほど強烈とは予想もしていなかったのですが」
 そして竜聖が落ち着くのを待って、兵摩が話を再開した。
「ちょうど君が川原に横になった時、僕はこちら側に来ました。悠姫からは指示があるまで動くなと言われていたのですが、思ったよりも『道』の消滅が早かったので、来ざるを得ませんでした。悠姫に叱られましたけど、事情が事情でしたからね。それに奴の本拠の制圧は完了していましたし、突入した隊員の、負傷者の応急手当もすんでいましたからね。彼女もわかってくれましたよ」
 悠姫のことを話す時、兵摩は穏やかな表情になる。
 おぼろげにも竜聖は、兵摩が悠姫に対してどのような感情を抱いているかを察することができた。
「そのあと僕たちは善後策について話し合いました。おそらく千岳大帝は仙珠が熟するまでは、どこかに身を潜めるであろうこと、その間は自身も力を蓄えるために動かないであろうこと。そこで我々も、どこかに隠れて来たるべき決戦に備えるべき。そして彼が動き出しても大丈夫なように、君を監視すること。以上が僕たちの結論でした」
「か、監視、て」
 竜聖は思わず上ずった声を出した。
 つまり今まで竜聖は四六時中、悠姫と兵摩の二人に見張られていたというのだろうか。
 たちまち竜聖の顔が熱くなる。それは恥ずかしさと同時に怒りを感じたからでもあった。
 竜聖の顔を見て、兵摩が苦笑した。
「心配しないでください。出歯亀は趣味ではありません。僕たちがチェックしたのは、君の体の中にある仙珠の『気』です。明らかに普通の人間とは異質の気ですから、それをモニターしていれば、大体の状況はわかります。君の身に危険が迫った時などは、多少、君の周囲を見張りはしましたけどね」
「え? それって、どういうことですか?」
「仙珠を埋め込まれた君は、妖魔や妖怪にとって恰好の『栄養源』なんです。多少は仙珠自身が結界を形成していたようですが、それでも万能ではない。強大な力を持った妖魔が君を襲うことだって有り得る。そんな時、千岳大帝が助けに来る可能性がどれだけあるだろうか」
 仙珠は千岳大帝にとって大切な物だが、竜聖自身が大切かどうかは疑わしい。兵摩はそう言った。
「彼にしてみれば、『替え』を用意することに何のためらいもないでしょうからね。妖魔を倒したあと仙珠を回収するでしょう。でも、僕は君のことをそんな風には考えたくはなかった。やはり人間一人の命ですからね。それは悠姫も同じはず。同じはずだったのですが」


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