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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第16回 第一章・十五
「そして何より、仙珠のことは忘れてもらわねばならない。何かの拍子にお前が秘術に目覚め、仙珠の力を引き出さないとも限らぬ。そうなれば、収拾のつかない事態が起こるやも知れぬ。もっとも、仙珠が熟す頃には、もしかすると、記憶が戻るかも知れない。仙珠の力があふれて……」
 言いかけて女性は口を閉ざした。ためらっているようには見えないから、何か別の事情があるのかも知れない。しかし、やはり女性はその先を告げることにしたようだ。
「仙珠の力があふれて、私のかけた術は破れるかもしれない。その時、お前は辛い記憶をすべて思い出すかも知れない。そのことにまったく興味はない。だが気がかりなのは、その余波がどのようなものか、全く予測できないことだ。仙珠は、高エネルギー体だという。もしかすると、新たな脅威を生み出すことになるかも知れない。その時は、私の力で抑えきることができるかどうか」
 竜聖には女性の言っていることが全く理解できなかった。正直なところ、早くこの場から去りたかった。しかし、全身が変にだるくてそこから動く気力さえない。
 それはどうやら、胸の中に紅い石を埋め込まれたせいのようだった。
「ねむい」
 呟きながら、竜聖はへたり込んだ。
 その様子をどうとらえたか、女性はしゃがみ込んだ。そして感情がこもらないながらも、まるで言い聞かせるように、竜聖に言った。
「仙珠の力に呑(の)まれるな。力に振り回されるな。私が記憶を封じても、この言葉だけは肝に銘じておけ」
 そのあと女性は、小さな声で何かの呪文を繰り返していたようだった。その呪文を聞く間にも、竜聖は眠気がこらえられなくなり目蓋を閉じた。全身がかすかに温かくなり、指先がしびれて感覚が麻痺していく。それに合わせて失われていた感情がよみがえりつつあるのも感じた。急に両親を失った哀しみや怒りがよみがえってくる。しかし。
 その時、急に冷たい風のようなものが頭の中を吹き抜ける感じがした。それと同時に「今日」という時間概念が消失していく。
 今が、何年何月何日なのか、はっきりとわからない。
 さらに「場所」の概念が消えていく。
 今自分がどこにいるのか、全くわからない。家の庭にいるようでもあるが、違う気もする。
 そして「今」という時間が消失した。
 朝なのか昼なのか夜なのか。閉じた目を通して感じる光は自然の物なのか人工の物なのか。
 さっきまで体験していたことが、夢だったのか現実だったのかわからない。
 そもそも、「さっきまで体験していた」こととは、何なのだろうか? 「今日」も「場所」も「時間」も「ない」のだから、そこで一体何があったというのか。
 竜聖は、半ば心地よい虚脱感が全身を満たしていくのを感じながら、意識を失った……。


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