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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第14回 第一章・十三
 大男の握り拳よりは一回り小さいだろうか。ごつごつとして不格好ではあったが、素直に竜聖は綺麗だと感じた。
「儂が未熟であったために、道を塞ぐだけのことに、仙珠の力を半分以上、使ってしまった。これでは儂の願いは果たせぬ。大願を成就するためには、再びこの仙珠に力を与えねばならぬのだ!」
 大男は竜聖の目を真っ直ぐに見た。なんて強い光を持った目なんだろう、と竜聖はある種の感動すら覚えた。その時一瞬、目の前にいるこの男が、自分の両親を殺したのだということさえ忘れるほど、竜聖は、意志の光に満ちた大男の目に見入っていた。そして、金縛りとはまた違う意味で、体が動かなかった。否、大男の『気』に飲まれて動くことを忘れてしまったのだ。
「この人間界において、仙珠にもっとも効率よく力を与える方法。それは、未だ『精気』の漏れていない少年少女の体内にて養うことなのだ。少年よ、今から、お主の胸にこの仙珠を埋める」
 言うや否や、大男は左手で竜聖の上着をまくり上げ、右手に持った紅い宝石を竜聖の胸の中央の素肌に押し当てた。
 少し痛かった。石の表面にある角が、薄皮一枚の胸の中央に当たり、竜聖は小さい声で「痛い」と言った。
 それを聞いていたのか、大男の眉が少しだけ歪む。しかし再び目元を引き締めると、大男は言った。
「少年よ、仙珠が育つには十年の歳月が必要となろう。その間、仙珠はお主の『精気』を喰ろうて育つ。だが、同時に仙珠はお主の能力を高めて、その身を護らんとするであろう」
 大男の手が震えている。竜聖はそれを紅い石越しに感じた。
 この人はなぜ震えているのだろう?
 竜聖にはその理由がわからなかった。
「十年が過ぎた時、儂は仙珠を受け取りに来る。そして、その時。その時は……」
 大男が声を詰まらせる。逡巡しているのが、眉の間によったしわで見て取れる。しかし、意を決したかのように、その言葉が発された。
「お主の命が果てる時なのだ」
 静かに紡がれた言葉は、しかし幼い竜聖には理解できなかった。
 大男もそれがわかっているのか、いっそう哀しげな顔をした。
「すまぬ。儂を恨め、憎め。だがこれも真(しん)に、よき『人の世』を作るためなのだ。少年よ、敢えてお主の名は問わぬ。だが、礎(いしずえ)となった者がいたことだけは決して忘れぬ。決して……!」
 言い終えると大男は口の中で小さく言葉を唱えた。それは何かの呪文のようだ。そして息を吐くと、気合いを込めて右手を押し出した。
 一瞬、竜聖の呼吸が止まる。だが、不思議と息苦しさはない。何が起きているのか目で追う余裕さえあるほどだ。
 見る見るうちに、紅い石が胸の中へとめり込んでいく。それは絵本で見た壁を抜ける魔法のようで、少しワクワクした。そして石がすっかり入ってしまうと、今度は胸の中で奇妙な感覚が現れた。
 まるで心臓が大きな口を開けて、今の石を飲み込んでいくかのようである。石をすっかり飲み込むと、心臓は再び脈動を始めた。
 その様子が見えているかのように、大男は頷くと、立ち上がって天を仰いだ。
 どれだけそうしていたかわからない。
 しばらくして顔を正面に向けた時、大男の両目から涙が流れ落ちた。
 再びしゃがみ込み、竜聖の目をのぞき込んだ。
 その目には複雑な光が浮かんでいた。その光の意味は竜聖にはわからない。ただ、この大男が本当はとてもいい人なのではないかと思えるほど、その光には邪念がなかった。
 大男は何も言わず、また竜聖も何も聞けず。
 ややおいて、大男は立ち上がった。
「さらばだ、少年」
 一言だけ言って、大男の姿はかき消すように見えなくなった。
 それからしばらく呆けていたのか。
 記憶がはっきりとしない。しかし、不思議なのは両親の死を、まるで他人事のように認識していることだった。
 いや、感情そのものがやや鈍磨していたかも知れない。心の中が変に平板になっている感じがするのだ。
 ふと、風の鳴るような音が、耳元に届いて竜聖は我に返った。


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