小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第11回 第一章・十
「本題に帰りましょう」
 思わぬ脱線だったが、竜聖にとってもそれなりに得るものがある話だった。
 目の前にいる男はもと「人間」だったのであり、少なくとも竜聖に対して敵意は抱いていないようである。ということは、おそらく自分が感じている妙な既知感について、本当のことを話してくれるだろう。
 もっとも、これは竜聖の希望的観測に過ぎないのだが。
「仙珠を奪った千岳大帝は、仲間とともにその場を逃亡しました。逃げた先は自分の所領、北方にある『剣峰国(けんぽうこく)』です」
 千岳大帝の所領は、竜夢神仙界の北方に位置する。険しい山々が連なり、あたかも何本もの剣が切っ先を天に向けて立っているかのように見えることから、古来「剣峰(けんぽう)」地方と呼ばれていた。千岳大帝がこの地を拝領した時、彼は「古くからの呼び名を尊重する」という理由で、国の名を「剣峰国」にしたという。
 彼の自治は善政といってもよかった。ただ、やや「力」に走るきらいがあり、悪人には徹底した厳罰を科した。侵略行為が疑われる相手に対しては、越境してでも強制的に取り調べ捕縛する権限を国境警備兵に与えたり、他国から入国した者が罪を犯した時には、その罪の重さによっては相手国に引き渡さずに、自国内で処刑することもあった。千岳大帝が国の名を決めた時、「古くからの呼び名を尊重する」といったのは建前で、本当は文字通り自国を「剣」にするという意思表明ではなかったのかと考える者も多いという。
 当然、周辺諸国からは抗議されることも多いが、自国内の秩序を護るという点において千岳大帝に正当性が認められるため、中央も彼のことは処分できない。何より彼は応竜玄帝の信任が厚いのだ。さらに実際に剣峰国内の治安の高さは、竜夢神仙界に存在する国家の中でもトップクラスであった。そのため領民のほとんどは千岳大帝を慕っているという。
 そんな状態であったから、追討の命を受けた兵士たちは、剣峰国内に入るのに難儀したという。
「強力な結界がありましたから、転送の術で直接乗り込むこともできず、かといって物理的に潜入しようにも、国境警備兵には千岳大帝を慕って剣峰国内だけでなく、他の国からもやって来た猛者たちも含まれていましたから、一筋縄ではいかなかったようです」
 結局、国内に入り込むのに、一週間を要したという。それも応竜玄帝の許可を得て投入された特殊部隊が、苦労した末でのことである。
「罪は千岳大帝ただ一人に帰せられるべき。これが玄帝陛下の厳命でした。ですから、ただ千岳大帝の命に従っているだけの兵や、人柄を慕って訳もわからずに自ら志願した民兵たちを、傷つけるわけにはいきません。したがって相手を無力化する『術』や『呪(しゅ)』を使うことになります。結果として大規模な戦いを展開するわけにもいかず、国内に入ってから千岳大帝の居城へたどり着くまでに、さらに一週間近くかかったといいます」
 こうして討伐隊は着実に千岳大帝を追いつめていった。そして遂にその本拠へと乗り込んだのだが。
「あと一歩のところで、千岳大帝はこの人間界に逃亡してしまいました。それだけではありません。おそらく彼が人間界へと逃亡する時間を稼ぐためでしょう、彼の従者たちがその命を削って結界を張り巡らせ、罠が仕掛けられ、それがために乗り込んだ特殊部隊の者たちは、半数近くが命を落としたそうです」
 兵摩が両手を拳にして白くなるほど握りしめる。
「僕は…。僕は、千岳大帝を心から尊敬申し上げていました」
 かすかに涙が、そのまなじりに浮かんでいるように見える。竜聖は兵摩に言葉をかけることも、ましてや話の先を促すことなどできなかった。
 沈黙は、時間にして一、二分であろうか。兵摩がそれまでの気分を切り替えるかのように短く息を吐いて話を再開した。
「彼が奪った『仙珠』というものは、高いエネルギーの結晶体です。そしてその使い方については、ごく一部の者しか知らないといわれているのですが、彼は秘法の類を研究していましたから、ある程度は仙珠の力を引き出すことができたのでしょう。追っ手が人間界に来ることを見越して、彼は仙珠の強大な力を使い、竜夢神仙界と人間界との『通路』を塞いでしまいました」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 263