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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第82回 エピローグ・二
「ああ、最期の言葉か。マスミが言凝を使うっていうのはわかるな。もし、あそこでマスミが刀月のことを『忘れない』、なんて言ってみろ、刀月は罪も執着も背負ったまま、その存在が固定されちまう。それじゃあ、刀月は救われねえ。だが、『忘れる』って言ったことで、奴の存在は自由になったんだ。『忘れる』っていうのは、罪を『忘れる』ってことでもあるんだぜ」
 俺は言葉がなかった。
 それほど深い思いが込められていたなんて。
「刀月に一番必要なのは、『許し』なんだよ」
 真雄さんがそう言うと同時に、
「刀月を助けてやってくれ」
 そんな、親父の言葉が、俺の脳裏に蘇る。
 穏やかな表情の真雄さんの言葉に、俺が思わず頷いた時。
「おおおぅっ! アーヴィング、ここにいたのね。私との料理勝負が怖くなって逃げたかと思ったぞう!」
 窓からリューカが顔を出した。
 なんでまた、そういう考え方が出来るかな、こいつは?
「お前、少しは料理の基本がわかったのか?」
「基本? ふっふっふ。今の私の腕を見ればアーヴィングはおのれの不明を恥じるであろう!」
 この言葉だけで、コイツの料理がロクなものじゃないことが想像できる。
「二人して悪だくみか?」
 マスミさんが、こちらに歩いてきた。
「そんなんじゃねえよ。日頃のお前の悪事よりは、マシな話だ」
 真雄さんが軽口を叩く。
 それを軽く流すと、マスミさんが真剣な瞳で俺を見た。
「本当によいのじゃな、アーヴィング?」
「……はい。俺はこれからも修業を続けていきます。それが、俺に課せられたことだし、ここで投げたら親父やお袋に顔向けできないし、巻き込んでしまった嶋野さんのことだって。……何より」
 と、俺はマスミさんを見た。
「俺自身、不安なんです。このままじゃ、いつ暴走してもおかしくない。今だって、突然、言凝が視えたりして困ることがあるんです。これを制御しないと、俺も、周りも不幸になる。だから、俺は自分を律する義務があるんです」
 俺の持つ力の暴走がどんな事態を引き起こすか、容易に想像できる。
「そうか」
 満足げにマスミさんが微笑む。
 俺の胸が高鳴った。こればかりはいつまで経っても慣れることができそうもない。
「今日はお招きいただき、恐悦至極に存じます!」
 突然、門のところで、いやに改まった声がした。聞き覚えのあるこの声は……。
「幻心……」
 刀月に依頼されて俺を誘拐しようとした蔵間幻心がいた。
 モーニングなんぞ着込んでいる。どこの貴族の園遊会に来たんだ、こいつは?
 俺が不服そうな表情をしていたのを見つけたマスミさんが笑顔で言った。
「儂が呼んだ。袖振り合うも他生の縁、というやつじゃ」
「でも、あいつは!」
 あいつは掛け値なしに悪人だ。だが、そんな抗議を笑ってかわすと、マスミさんは言った。
「刀月に操られてのことであったとしたら?」
「え?」
 一瞬、意味がわからなかった。でも、その意味が徐々に脳内に浸透する頃、幻心は妙に固まりきった体で、ぎこちなくマスミさんにお辞儀を繰り返していた。
「……まあ、いいか」
「そうじゃ、アーヴィング。パーティーは楽しい方がいいに決まっておる」
 マスミさんに頷くと、俺は気合いを入れるように言った。
「さて、と! 客も増えたし、料理をガンガン作らないとな!」
 マスミさんが愉快そうに笑って言った。
「主とリューカの料理が楽しみじゃ」
「あいつの料理は勘弁して下さい」
 げんなりして俺が言うと、真雄さんが買い物袋を俺に手渡した。
「頼むぜ、アーヴィング」
 俺はサムズアップで応える。
 楽しいパーティーになりそうだ。


<了>


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