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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第81回 エピローグ・一
 日曜日、快晴。
 マスミさんたちの引っ越し記念パーティーの当日だ。一体、どこをどう話が伝わったものか、和穂さんや和穂さんの同居の男性(穏やかで優しそうな人だ)といった関係者だけでなく、「WEらんど」の店長やシェフ、挙げ句に修平や景といったクラスメートまで何人か来ている大パーティーとなってしまった。

 刀月が消え去ったあと、マスミさんは俺に土下座をした。親父とお袋の命を奪ったこと、そして俺の記憶を封じたことに対する詫びだという。
「すまぬ。主の記憶を封じたのは、儂の罪を隠すためであったかも知れぬ。儂の保身であったかも知れぬ。この国に戻ってきたのは、第一に主を護るためであったが、本当はそうではなく、儂自身の……」
 そこから先の言葉を、俺は止めた。聞く必要はないし、彼女を憎む気にもなれない。そもそもマスミさんのしてくれたことがあるからこそ、俺が生きていられるのだし、親父たちとの繋がりを強く感じられるのだ。
 ただ、そのせいで、俺を構成する言凝が少し複雑なことになってしまった。俺自身、自分の「目」で視たからわかるが、確かに俺を構成する言凝は人間のそれとは少し違う。
 ただ、それは忌むべきモノではない。親父とお袋、そして俺自身の三人分の人生、それを背負っているが故のものなのだ。
 だから、これは俺にとって誇りとも言えるものなのだ。
 それよりも、俺は取り返しのつかないことをしてしまった。
 状況はどうあれ、俺は人一人、殺してしまったのだ。
 震えながら、涙を流す俺に、しかし、マスミさんは、あっさりと言った。
「主にそれだけのことが出来るはずが無かろう? 奴にとどめを刺したのは、儂じゃ」
「とどめ?」
「そうじゃ。主が念じることで、響きを起こせるように、それぐらいのことは儂でも出来る。刀月に『崩壊』の響きを送ったのは儂じゃ。奴にとっては『死』こそが救いになるでな」
 これが本当かどうか、今の俺にはわからない。
 でも、今は彼女の厚意に甘えることにした。
 それが、最善の道だから。

 午前十時、俺の家で開催、と言ったにもかかわらず九時三十分の今で、全員揃っていて、つまみ食いなぞ始まっているのは、どういうわけか。
「俺も、店開く時、世話になったんだよ、マスミさんにはな」
「WEらんど」を臨時休業にした店長は、懐かしげにマスミさんを見る。
 やっぱりマスミさんの年齢が気になるが、それは脇にどけておこう。多分、聞いたりしたら、危ないから。……俺の身の安全が。
「そういえば、真雄さん、どこだろ?」
 食材の追加買い出しをお願いした真雄さんの姿が見えない。一度、帰ってきたのは間違いないのだが。
 俺は、表へ出た。
 真雄さんは庭にいた。
 買い物袋を提げ、道路の方を眺めている。
「真雄さん」
 俺が声をかけると、真雄さんは手を挙げる。
「どうしたんですか?」
「いや、何、買い物帰りに咲弥にあってな」
 咲弥。刀月と一緒にいた女性だ。
「パーティーに誘ったんだが、断られちまった」
 どこか寂しげに真雄さんは言った。
「旅に出るんだとさ。まあ、しばらく心を癒す時間が必要かもな」
 俺は、聞きそびれたことを聞いてみることにした。
「真雄さん、あの時、マスミさんは、なんで刀月を突き放すようなことを言ったんですか?」
「ン?」
 と、一瞬、何のことかわからないような表情をした真雄さんだが、すぐに思い出してくれた。


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