小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第80回 第七章・十三
 刀月はもはや俺を見ることなく、静かに言った。
「さあな。なんでなんだろうな。……どこかで間違えたとしか思えない」
「なんだよ、それ!? 無責任だよ、アンタ!!」
 思わず詰め寄る俺を、真雄さんが制した。刀月はどうにか上半身を起こし、マスミさんに向いた。
「師匠、俺のことを、紅久那刀月という不出来な弟子がいた事を、覚えていて下さいますか?」
 刀月は、マスミさんの記憶に残ろうとしているのだろう。ここへ来て、初めて刀月が抱いている強い想いの一つがわかったような気がして、俺は頭を殴られたような思いだった。
 マスミさんは、しばし刀月を見てから、微笑みを浮かべた。いつものような勝ち気な笑みを。
「御免じゃな。汝(うぬ)のようなどうしようもない弟子のことなぞ、早く忘れるに限る」
 咲弥が息を呑む。俺でさえ、今の言葉はあんまりに思えた。だが、真雄さんは微笑み、刀月も、何かを悟ったような表情をしていた。
「有り難うございます」
 涙と柔らかな笑みを浮かべ、再び咲弥の膝に頭を預けた。
 月明かりの下、刀月の体が少しずつ色を失っていく。それはまるで砂の像のようだった。そして風に吹き散らされる砂紋のように、その姿を消滅させていった。
 これが野望を抱いた刀月という男の、あまりにも静かすぎる最期だった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 223