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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第8回 第一章・七
 昼にはいろいろあったが、そのあと俺は無事に午後からのバイト先へと出勤できた。そのバイトも午後八時に終了し、俺は帰路についている。
 このバイト先は海浜(かいひん)地区にあって、俺が住んでいるところからは、かなり遠い。だから、バスを利用している。
 バス停を下りてすぐの、坂道を見上げる。この上が俺の家だ。今は独りで住んでいるが、昔は両親と暮らしていたのだろう。
 ちなみにその家は、やたらと広くて部屋がたくさんある。父の父、つまり俺の爺さんの代は旅館をやっていたそうだ。旅館業は親父の代で廃業。建物を取り壊すのも金がかかるということで、そのままにしたらしい。
 一階部分に大広間が一つ。これは宴会用だったんだろう。そして厨房や大浴場、そしてよくわからない六畳ほどの広場。この広場は、どうやら土産物を販売していたスペースだったらしい。十二畳程度の部屋が一部屋。これは和室だ。そのほかには、従業員の詰め所に使われていた部屋や洗濯などに使われていた水場、トイレなどがある。
 二階には一階と同様の十二畳ほどの和室が二部屋。そしてちょっと広めの和室が一つ、洋室が一つ。
 それから、離れが二軒。ただし一軒は住み込みの従業員が住んでいた宿舎みたいなものだったという。
 あと、祖父や父たちが住んでいた母屋もあったらしいけど、傷みがひどいとかで、解体せざるを得なかったそうだ。
 とまあ、べらぼうに広い土地と家だ。維持管理も半端じゃない。でもまあ、それも慣れだ。確かにここを一気に掃除しようとすると、たいへんなことになるが、一部屋ずつ、あるいは一週間単位でエリアを決めて掃除すれば、そんなにたいへんではない。それに、ほぼ三日に一度、和穂(かずほ)さんが来て、掃除だのなんだのいろいろやってくれている。
 和穂さんというのは、記憶喪失だった俺を「家に帰そうと医者を説得した」という親戚だ。高校入学前の春休み頃までは、俺と一緒にこの家に住んでいた。親父の妹だから叔母さんということになるんだけど、そう呼ぶと、彼女はとても哀しそうな顔をしたり怒ったりする。だから、俺は中学生の頃までは「お姉ちゃん」と呼ばされていた。もちろん今でも「姉さん」と呼ぶこともあるけど、最近は「和穂さん」と呼ぶことも多い。まあ、単純な心境の変化という奴だ。深い意味はない。
 それに、彼女は実際に若いから、俺としても「叔母」と呼ぶことには抵抗があるのだ。 この家に関する固定資産税だとか、いろいろな法律に関係する難しいことは、他の親戚の人がやってくれているという。俺は会ったことない人だけど、和穂さんが全幅の信頼を寄せている人だから、問題はないだろう。
 生活費なんかは特に問題はない。親父たちが結構な財産を残してくれたのだ。そしてそれは、和穂さんがきちんと管理してくれている。だから心配はないけれど、俺としてはやっぱり、ある程度、自由に使えるお金というものが欲しい。それにずっと独りで暮らしていくようなものだから、働くことにも慣れておきたい。そんなわけで俺はバイトに出ているのだ。


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