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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第78回 第七章・十一
 頭が割れそうに痛い。
 片膝をつきながらも、目は刀月から離さないでいると、奴はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。その口には、いやらしい笑みが張り付いている。
「そうか、貴様、その力が制御できないな? フン、本来、資格のない者が力を手にすれば、どのような惨めなことになるか、身をもって知ったであろう」
 何か言い返してやりたいが、頭が痛くてそんな余裕がない。俺に出来るのは、せめて奴を睨むだけだ。
「さて、貴様から奥義書を取り出すとしよう。さすれば、貴様もその苦しみから解放され、資格ある者が力を手にする。すべて正しい在り方に収まるのだ」
「くそ。……あれ?」
 呻いた時、妙なモノに、俺は気づいた。
 なんと喩えればいいだろう。言凝が宙を舞っている状態と言えば、一番近いだろうか。それを視ているうち、俺は唐突に気づいた。
「そうか、この世の全ては言葉で出来ている。それは、こういうことなんだ! そして言凝とは、本来こういうものなんだ!」
 マスミさんに言われたことを、今更ながら思い出した俺は、言凝の響きを念じた。
 言葉によって有機物や霊的エネルギーに影響を与える言霊にあらず。言葉や咒字の並びによって霊的エネルギーを操り、神秘を起こす咒術にあらず。そして心の力によってものの有り様を捻じ曲げる念力にあらず。
 言凝とは、全てのものを成り立たせている根本の要因であり、しかも言葉と響きによって干渉できる要素なのだ。
 俺の体を構成する言凝がその響きを空中に伝え、空中を漂う言凝の因子が周囲の壁に伝えた。
「崩れろ」
 念じるだけでは集中が続かず、俺は言葉に出した。途端、刀月に向かって壁が崩れかかってきた。
「なに!? まさか!?」
 俺が何をしたか、わかったのだろう。刀月は崩れてくる瓦礫をかわしながら、目を見開いて俺を見た。
 そうだ、これが言凝の本来の使い方だ。俺はまだ言霊の域を出ていなかった。言凝を使うとは、モノを構成する根本要素に干渉するということなのだ。そこに生物・非生物の違いはない。
 続けて俺は念じた。
「崩れろ!」
 刀月の足下の床がひび割れていく。咄嗟に飛び退き、数瞬遅れて床が崩れ落ちた。
 隙を与えるわけにはいかない。次々に俺は刀月の周囲の壁や床を崩していった。そのたびに刀月は、まさに超人的な体捌きでかわした。
 それが、刀月を追いつめる行為だと俺は思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。刀月はかわしながら、少しずつ俺との間合いを詰めていたのだ。
 それに気づいた時は、もう奴は目と鼻の先だった。
 刀月が、乱杭歯を見せて笑う。
 勝利を確信した表情だ。
 だが、俺にはもう打つ手がない。頭痛と吐き気に耐え、言凝の響きを操ることがどれほどの負担になっていたか。
 もうだめだ。
 弱気が鎌首をもたげた時だ。
『諦めるな!!』
 親父とお袋の声が響いた。一瞬、正気に返ったかのように頭痛と吐き気が軽くなる。
 そうだ、最後の最後まで諦めるわけにはいかない。刀月がこの力を手にしてしまったら、一体どんな事になるのか。言霊使いでない俺でさえ、これだけのことが出来たのだ。言霊を自在に操る鬼がこの力を使うことが、どれほどの悲劇を生むか。
 それはもう使命感と言ってもよかった。
「諦めて、たまるかっ!」
 叫んで俺は奴を睨む。その時!


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