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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第74回 第七章・七
「早かったのですね」
 マスミと真雄を出迎えたのは、咲弥だった。
 浮かべる笑顔は氷のようで、一切の感情を排除している。それはつまり、彼女がいかなる策を抱いているか、容易に想像できないことでもあった。
「あんな『カタビト崩れ』如き、俺たちの敵じゃねえよ。つうか、世界中にも俺たちみたいな『能力(ちから)』を持った奴らはウヨウヨしてるからな。そいつらが結構、片づけてたぜ。時間稼ぎにもなってねえ」
 三人がいるのは、海浜地区の工場街入り口だ。
「計算の上です。そのために私がここにいるのですから」
「お前なあ、お前でマスミを止められるわけないことぐらい、わかんだろ?」
 真雄が呆れて、ぼやく。だが、咲弥は、ただ無感情に頷いた。それぐらい、わかっているといわんばかりに。
「承知しております。私では時間稼ぎにはならない」
「じゃあ、さっきの言葉はどういう意味だ?」
「簡単なことです。あなたたちを足止めするためです」
 真雄が怪訝そうに眉をひそめる。
「矛盾してるぞ、お前。自分じゃ時間稼ぎにはならないって、今、言っただろうが?」
「確かに『私』では時間稼ぎにはなりません。ですが、『足止め』ぐらいなら、できます」
 咲弥がそう言った瞬間、マスミがあることに気づいた。
「真雄、今すぐ跳べ!」
「遅い。あなたにしては、気づくのが遅すぎます、マスミ」
 言うや否や、咲弥が右手にナイフを持ち、その刃で空中に何かの紋様を描いた。
「なんだ、こりゃあ!?」
 真雄が頓狂な声を上げた。
 紋様は、赤黒い光の軌跡を描き、その光は空を駆け、曲がり、地を走って跳躍し、交錯し、立体的な幾何学模様を空間に描いた。あたかも網のように見えるそれは、マスミと真雄の周囲を取り囲み、明らかに異様な歪みを内包している。
「『幻創空間』の一種か」
 マスミが呟く。
「汝(うぬ)の血でナイフを錬磨し、そのナイフで幻創空間を刻み込む。確かに、足止めに過ぎぬな。それでは、時間稼ぎする役は」
 マスミの目の前に、陽炎のように影が揺らめく。
「幻創空間には、固有の生物がいることもあります。ここに展開した世界の住人は通常、妖魔などと呼ばれる輩ですね」
 咲弥が、網の向こう側で涼やかに微笑む。
「今、そこは幻創空間でありながら元の世界との繋がりも生かしてあります。つまり、いくらでも出てくるのですよ、妖魔は。倒してもキリがないでしょう? ここを抜け出すのが一番でしょうが、それだけの余裕があるかどうか」
 咲弥の言葉の終わらぬうちに、マスミと真雄は戦闘状態に入っていた。
 その様を見ながら、咲弥は呟く。
「世界中であなたたちが、カタビトを相手にしていたのも、無駄ではないんですよ。この術は準備に時間がかかるんです」


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