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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第73回 第七章・六
「フム。封印は解けていないようだな。なかなかに強固なもののようだ」
 刀月の言葉に、俺は我に返った。
 俺の目からは涙が溢れている。溢れて溢れて止まらない。
「……う」
「なんだ?」
 俺の呟きに刀月が首を傾げた。
「……がう」
「何を言っている?」
「違う!」
 俺は叫んだ。
 刀月が眉をひそめる。かまわず俺は言ってやった。
「俺は奥義書なんかじゃない! ましてやカタビトなんかじゃない! 俺は皇アーヴィングだ! 皇哲弥と、皇ヴァージニアの息子だ! 二人の息子なんだ!!」
 今の俺なら、理解できる。
 俺は間違いなく、親父とお袋の子どもだ。
 血が繋がっているとか戸籍がどうとか、そんなレベルの話じゃない。
 俺の中には親父とお袋の命が、紛れもなく二人の命が息づいているんだ!
 そして二人の心は、俺を支えてくれた。刀月からカタビトだと言われた時、それを否定したのも、嶋野さんが行方不明になったと聞いた時、気にするなと励ましてくれた声も、全ては二人の心だったのだ。
 多分、意識できなかっただけで、折に触れ、二人の声は俺を励まし、支えてくれたのだ。
 涙が溢れて止まらない。思わず、俺は呟いていた。
「ありがとう、親父、お袋」
 舌打ちをして、刀月が俺を睨む。
「フン。だとしても、お前の中に言凝の奥義書があるのは間違いなかろう? あの時、確かに奥義書が動いた気配があった。ここに埋設の形跡がなく、そして哲弥もヴァージニアも死んだということは、その奥義書はどこへ行った? 答は一つだ。奥義書は人に化けたか、そこにいた人間にとりこまれたのだ! 唯一生き残った、子どもにな!!」
 刀月が笑い顔になる。それは凄惨そのもので、まさに鬼の形相だった。
「ならば話は早い。貴様から、奥義書を取り出せばよいだけのこと! 封印を解き、擬態を解除するより、遙かにたやすいわ!!」
 何かを掴み出すように開かれた刀月の右手が、閃光を放つ。そして、俺に突き出されてきた。
 だが、俺はそれを手で軽くはねのける。
 信じられないものを見るかのように、刀月が目を見開く。
「バカな!? 今のが見えたのか?」
「ああ。スローモーションだったぜ」
 喩えじゃない。本当に奴の手の動きがはっきりと見えたのだ。それだけじゃない。今の俺は、言凝が理解できる。
 頭でわかる「知識」ではなく、体でわかる「感覚」として!
「まあいい、にわか仕込みの言霊修業が功を奏したとも思えんが、それでも今の反射には敬意を表そうじゃないか」
 負け惜しみではなく。本気でそう思って刀月が言っているのがわかる。
 言葉の「響き」が語っているのだ。
 俺は深呼吸をして言った。
「刀月、一つ訊きたいことがある」
「断る。知りたいことがあるなら、貴様がその手で私をねじ伏せ、訊き出すがいい。それが私に対する礼儀と心得よ」
 こいつの美学がよくわからない。
「なら、俺に対する礼儀は、どうやって通す?」
 当然の問いだろう。刀月は、答える義務がある。そして奴は、鼻で嗤って答える。
「せめて、両親が逝ったこの場で、葬り去ってやる」
 俺の中で、何かが弾ける感覚があった。
「絶対、許さねえ!!」
 叫びながら、俺は刀月に殴りかかった。


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