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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第7回 第一章・六
 それはどうだろう? 声こそ上げられなかったけど、俺にも見えたぞ?
「いや、俺にも見えたけど?」
 思ったままを言うと、男が俺を見る。その目は「嘘を言うな」と言っていた。
「いや、嘘ではないぞ。こやつは、お前の動きを目で追っていた」
「ちいっ、呪力のチャージが足りなかったか」
「さてと。リューカ、よく見ておけ。儂(わし)がいつも言っておろう、呪術師たるもの、体力が必要だと。それはこんな風に奇襲を受けた時、受け流すためでもあるのじゃ」
 彼女が鎖に囚われた少女に話しかける。知り合いだったのか。
「というわけじゃ。また出直せ、呪術師よ」
 そう言うと、彼女は余裕の笑みのまま腕を振った。天へ向けて。
「おぼえてろううううう!」
 捨てゼリフとともに男が青空に吸い込まれていく。
 いや、もう何が何だか。さっきから有り得ない光景ばかりだ。
 でもお礼は言わないと。俺は彼女に近づいた。しかし、彼女は険しい、怒ったような怖い顔をしている。……俺、なんかしたかな?
 だが、彼女の視線は俺を捉えてはいない。俺を突き抜けた十メートルぐらい先を見ていた。振り返ると、そこには一人の女性がいた。
 ワンレングスというのだろうか、長い黒髪で左目を隠すようにした若い女性。前を開けた黒いコートに赤い服、白いミニスカートを穿いて黒いブーツを履いた女性だ。年齢は二十代後半といったところだろうか。
「やはり帰ってきていましたね、マスミ」
 黒いコートの女性が静かに、感情のこもらない声で言った。
「あらかじめフリーの呪術師に、彼を襲わせて正解でした。あなたがいるのなら、こちらも手を考えないと」
 それだけ言うと、彼女は背を向けて歩いて行った。三歩ほど歩いて一度だけ振り返る。
「見逃すのですか、私を?」
 彼女……俺を助けてくれた、「マスミ」と呼ばれた女性が不機嫌そうに答えた。
「汝(うぬ)は、ただあの男、紅久那(くくな)刀月(とうげつ)に動かされているだけ。刀月にしても、なるべくなら改心して、まともに人生を歩んで欲しいと思っておる」
「あなたのその『優しさ』がどんな悲劇を生んでしまったか、忘れたのですか?」
 冷たい、槍のような彼女の声が俺を通してマスミさんに刺さったように感じられた。
 マスミさんは、しかし眉一つ動かさず答える。
「だからこそ、こうして帰ってきたのじゃ」
「そうですか」
 ただ一言だけ言って、彼女は去っていった。
 直後、派手な水音がして水柱が立った。
「何だあ?」
 まるでスコールのように降り注ぐ水滴を腕で防ぎながら、俺は川を見る。川から何かが、向こう岸へと這い上がっていくところが見えた。
 あ、さっきの男だ。そりゃあ、そうだよな。無限に上に行くわけはないから、いつか重力に引かれて落ちてくる。でも、正確にこの川に落ちてくるっていうのはすごいし、そもそもどんな高さから落ちたにせよ、無事だったのもすごい。確かこの川って、川幅は十五メートルぐらいあるけど、水深は、一番深いところでも三メートルもなかったはずだぞ。
 つくづく不思議な光景ばかりが展開される。もういちいち驚くのもバカバカしいほどだ。
 溜息をついて俺は振り返った。マスミさんが光の鎖から女の子を助け出したところだった。
 その時、彼女と目があった。微笑みかけてくれる。
 なんか恥ずかしくなって、俺は、目をそらした。
 これが、俺とマスミ・ミロワールとの「初めて」の出会いだった。


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