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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第69回 第七章・二
 刀月はそう宣言し、何かを口ずさみ始めた。メロディはなく、意味のないただの言葉の羅列だったが、どこかしら、不思議な響きがあった。でも、それ自体には、特にこれといった力は感じない。
 それなのに、何故か俺の奥底から、せり上がってくるモノがあった。
 まるで噴出口を求めるマグマのように、俺の中で湧き起こってくる圧力は、途中にある関所をぶち抜きながら、俺の脳髄を目指す。そして関所が突き破られるたびに、俺の記憶のページが一枚一枚と、追加されていくのだ。
 その中で、俺は叫んだ。俺自身の意識を保つために。
「何故だ、何故こんなことを!?」
 一瞬、口ずさむのをやめ刀月が俺を睨む。視線で殺されそうだ。そして、数秒の後、低い声で言った。
「貴様に話す必要はない」
 そう凄むと、刀月は吐き出すように言った。
「人間でない貴様にはわかるまい。人のみが持つ感情の機微、深い『想い』というものが」
 一瞬、刀月が哀しそうな表情になったのは、気のせいだろうか。すぐに、刀月は呪文の詠唱を再開した。再び、俺の脳内がかき回される。
 そして最後の関所が破られ、マグマが脳天を貫いた時、俺は過去の海へと放り込まれていた……。

 十歳の時には、俺は親父とお袋が「言霊」という言葉の力を使った神秘を使うことを、おぼろげに理解していた。それをすごいことだと思ったし、子ども心に純粋に憧れた。だから、あの日の夕刻、親父たちの師匠に当たる人から命ぜられたという「埋設儀式」というのをどうしても見たくて、駄々をこねたのだ。
「困ったなあ」
 親父は、弱り切ったようにお袋を見る。お袋も、同じような表情で肩をすくめるだけだ。
「どうする、ヴァージニア?」
「そうねえ。私は、あなたの判断に任せるわ」
「うーん、こればっかりはなあ。他のことだったら、スパッと決められるんだが、これは秘儀だからなあ」
「でも、この子は言霊について、薄々は気がついてるわ。もしかしたら、きちんと修業させれば、かなりの境地に行けるかも?」
「それは俺も認めるが」
 しばらく二人は、俺には理解できないような単語を交えて会話していたが、しばらくして、親父が俺を見た。
「そうだな。連れて行こう。親子三人、揃って言霊使いというのも、ステキじゃないか!」
 親父は笑顔を浮かべて、俺の髪がくしゃくしゃになるくらい、頭をなで回した。
「何かあった時、責任は俺がとるよ。マスミ先生には、俺が叱られる」
 そう言って、お袋を抱き寄せた。
 俺は訳もわからず、ただただ、親父たちについていけることが嬉しくて、はしゃいでいた。
 だが、儀式の場所となる花火工場跡で、あの悲劇が起きたのだ。


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