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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第64回 第六章・八
 それがどれほどの重要な意味を持つのか、マスミさんは「例え話」で話した。
「物理を学ぶのに、数学を学んでおくのは必須じゃ。古典文学を学ぶのに、現代の文学を学んでおくのは無駄にはならぬ。似たようなものじゃ。言語を理解するのに言霊の知識は妨げにはならぬ。むしろ、その救けとなろう」
 笑顔さえ浮かべて、そんなことを言うマスミさんに対し、俺は首を傾げた。
「でも、マスミさん、言霊は言凝とは違う、みたいなことをいってませんでしたか?」
「ほう?」
 と、何故か嬉しそうにマスミさんは俺を見る。
「何ゆえ、そう思うのじゃ?」
「えっと……。 あれ? そうじゃなかったっけ? 確か言霊の奧に言凝がある、みたいな表現だったような感じがしたんだけど?」
 何が嬉しいのか、マスミさんは満面の絵美を浮かべ、頷きながら言った。
「言凝はすべての『基(もとい)』じゃ。言凝は『響き』そのものといってもよい。それを理解する時、頭の中で無意識に文字に変換したり音に変換したり、といったことが起きる。それ故、さまざまな国の言葉により言凝の意味が異なるように感じる。じゃが、今も言ったように言凝は全てのものの『核』じゃ。それ自体、何も変わるところはない」
 俺が見ていた言凝は、俺の脳がそういう風に理解していたということだろう。
「つまり、言霊の奧には言凝へと通じる『見えざる意味』が潜んでいる。流派により言霊の意味が異なるが、それはこういう理由による。そこでさまざまな意味を知悉することで根源へと至る道を開く、複雑に絡んだ糸をほどく、ということなのじゃ」
「えーっ、と。すみません、せっかく説明してもらったんですが、その説明自体が理解できません」
 恥を忍び、俺は素直に「まったくわからない」と白状した。
 呆れ返るかと思ったマスミさんは、やっぱり笑顔のままだった。
「よいよい。理解できなくて、当然じゃ。これから修業していく段階で、次第にわかってくるであろ。焦らぬことが大切じゃ」
 そしてマジックを持ち、ホワイトボードに「ア」と板書した。
「早速、講義に入るぞ。さて、まずは『ア』じゃ。この言葉の持つ意味は、無であり有。天であり、初めを意味する母なる音じゃ」
 マスミさんはホワイトボードに『有無』だとか、『天』て書いて丸で囲ったりとか、いろいろ板書していくんだけど、正直ついていけそうもない。
 確かに、言凝らしいモノは見えたけど、それはあくまで感覚的なもので知識で何かがわかっている訳じゃない。
「次は『イ』じゃ。ほとばしり止(とど)まる象を持つ。故にこの言霊を使う時は自身に止まり返ることを考慮する必要がある。例えば『いつ』という言葉は『い』と『つ』に分かれるが、ここで『つ』の持つ意味によっては解釈が変わってくる。『つ』が『の』を意味する時、『い』の言霊は特定のどこかに解放されてしまい、そこにおいて効力を示す。しかし『つ』が完了を表す『たり』の意味を持つ時、『い』の言霊はその事柄に止まり、縛られる」
 まったくわからない。
 頭がグズグズだ。
 だから、こんな風に、夜中の道を歩いているんだろう。
 ……え? 何だって?


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