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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第63回 第六章・七
 かつて悪意に満ちようとする世界を救おうと願っていた自分が、その悪意のおかげで目的を果たそうとしているのだ。
 どこか間違っているか、私は?
 ふと、そんな自問が胸を突く。自分がやろうとすることは、あくまでも本来の目的を果たすためだ。その途中経過で人間の悪意を増長することになろうと、それは目的に至るための必要な階梯であって、喩えるならば必要な「痛み」なのだ。
 そう、自分が言凝の奥義書を手にした暁には、世界の膿を残らず抉りだし、清らかな水で傷口を洗うように世界を癒して再生させることになるのだ。
 そう自分に納得させて、気分を変えるかのように呟く。
「奥義書……か」
 それは言凝の全てを記した物ではないだろう。だが、これまでの経験から、マスミが「儀式」に使っていたのは断片的ながらも言凝の奥義を記した書物なのだ。霊的なポイントで書の転読を行い、記された言凝をほどく。ほどかれた言凝は儀式に従いポイントを刺激し、その「場」を霊的に磁化する。そうすることにより、そのポイントを浄め強化し、ひいては人間界の護りを盤石のものにする。
 マスミは、好んでこの種の方法を用いた。いつだったか、弟子入りして間もない頃、刀月は進言したことがある。
「言凝をもって世界に干渉すればよいではないですか」と。その時、彼女は静かに、そして日だまりのように穏やかな笑みを浮かべて答えたのだ。「儂の性分じゃ」と。
 今ならわかる。マスミは言凝で世界に干渉することで発生する危険を避けていたのだ。
 言凝とは、全ての物の根幹を為す響きだ。一語で事を成すが、言葉の裏にある力に囚われる言霊とは、較べ物にならない。響きを知るだけで、そして再現するだけで物事の有り様を変えてしまう。それはもはや神域であり、人の手に余るモノだ。だからこそ、マスミはその使用には慎重だった。
 畢竟、奥義書とはその響きのエッセンスに他ならない。エッセンスを理解できれば、あとはいくらでも応用は利く。故に、一つの奥義書に通じることが出来れば、言凝そのものを会得したも同然のはずなのだ。
「行くか」
 そうひとりごつと、刀月は立ち上がった。

 なんていうか、頭の中がメレンゲみたいだ。ふわっふわで、ぎゅっと握ったら「グジュグジュ」っていう感触とともに指の間から漏れ出しそうだ。
 今夜の講義は、言霊の基礎講義だった。
「よいか、アーヴィング。言葉に意味があるように、単語一言にも意味がある。今日からは、それについて説明していく。ただし、勘違いして欲しくないのは、これはあくまで『言霊』における解釈であって『言凝』そのものではないのじゃ。じゃが、言霊に潜む『意味』に親しんでおくのは重要じゃからな」
 要するに、言凝を習得する前に言霊をマスターしておけ、ということらしい。


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