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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第61回 第六章・五
「そしてあたしは命をとりとめたわけだけど、それは完璧じゃなかった。あたしの『欠損部分』が多すぎて、大部分を残った言凝からの自己修復に当てることになっちゃったんだって。そのために、本当の名前である『醍醐竜華』っていう名前は、あたしに馴染まなかった」
「え? 何だって? 本当の名前?」
「うん。あたしの本当の名前は『醍醐竜華』っていうんだって。でもね、『名は体を表す』っていう言葉がある通り、名前と言凝は密接に結びついている。復元されたあたしの言凝が元と異なりすぎているために、元の名前は使えなかったの。そこで、マスミが言凝を元にしてつけてくれた名前が、『リューカ・ダイン』」
 驚きの連続だった、としかいえない。リューカの過去だとか、名前が馴染まないだとか、初めて聞く上に、随分と衝撃的な話だ。
「それで、一時期、本当のあたしは、何なんだろうって悩んだり、自分探しをやったりもした。昔の新聞記事で、アメリカであったっていう事故を探したり、それこそ、マスミに言凝を操作してもらったりもしてね。まあ、もともと言凝で封印していた訳じゃなかったから、効果無かったけど。でもね、途中からそんなこと、どうでもよくなっちゃったの」
 さばさばとした口調でリューカは言った。
「だって、あたしは過去にいる訳じゃない。『今』『この瞬間』に存在している。それに大体五歳とか六歳の頃のことなんて、思い出したって、それで人生がどうにかなる訳じゃない。そりゃあ、あたしがどこかの大財閥のご令嬢だったりしたら、必死にもなるかも知れないけど、それって一瞬だと思うよ? だってそんなのより、こうしてマスミと一緒にいる方がずっと充実してるし、面白いもん」
「だからさ」と、リューカは身を乗り出してきた。
「アーヴィングもそんなに気負い込むことないよ。大体、本当の名前が使えるって時点で、アーヴィングはアーヴィングなんだから!」
 柔らかに微笑むリューカを見た瞬間、何となくわかった。
 そうだ、こいつはそれなりの段階を経て、今に至ってるんだ。だからこそ、俺が悩んでいることを我が事のように感じてくれたのだろう。
 リューカだけじゃない。未来さんも、過去を否定せず、一歩一歩の段階を経て、「今」の自分というものを、しっかりと持っているんだ。
 でも。いや、だからこそ!
「有り難う、リューカ。でも、俺はやっぱり昔何があったのかを思い出したい。思い出さなきゃいけないことなんだ」
 俺も、微笑み返す。
 これだけでリューカは悟ってくれたのだろう、うん、と頷いた。
「一歩一歩、歩いていれば、どこかのゴールには着くもんね。一足飛びにどこかへ急ぐことなんてないよ」
 リューカの言葉に、俺はどこか救われたような、そんな気がしていた。


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