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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第60回 第六章・四
 俺の(当然の)疑問にリューカは、不思議そうな顔で答える。
「だって、マスミがね、『その地その地で風習や概念が異なる。ある国で常識だったことが、別の国では通用しないことも多い。いまだ言凝に通じていないお前は、その地の概念を知っておかねばならない。女なら気をつけておくべきことは多い』って、教えてくれたんだよ。言凝に通じれば、相手の『概念』をねじ曲げて、こっちの常識を通すことも出来るから、問題はないらしいんだけど」
 いや、それはそれで大いに問題あるだろ?
 でも、何となくマスミさんなら、わかる気がする。あの人は、なんだかんだと面倒見がいいような気がするのだ。
 そんな風に考えていると、不意に、リューカが意地の悪そうな笑いを浮かべた。
「アーヴィングってば、『自分探し』をしてるんだって?」
 ちょっと気に障る表現だが、間違いではない。俺は少しばかりむくれてみせる。
「まあな。それがどうかしたのかよ?」
「うんうん。アーヴィングも、そういうお年頃になったか」
「だから、俺とお前は旧知の仲じゃないだろ。そういう言い方は根本的に間違ってるぞ?」
 あはは、と笑ってからリューカは穏やかな、それこそ例えは変だが、お姉さんじみた穏やかな笑みで俺を見た。
 ほんの少しだけど、俺の胸を甘酸っぱい郷愁のようなものが駆け抜ける。
「あたしもね、同じなんだ。『自分探し』をしたことがあるの」
「え? お前もか?」
 頷くリューカのことを、すぐには理解できなかった。いつも太平楽に構えているようにしか見えないリューカが、そんなシリアスな面を持っているとは、にわかには信じられない。
 だが、リューカは変わらぬ表情で言った。
「あたしね、十年前に死にかかってるんだって」
 突然の告白は、どこか遠いところで展開しているドラマのセリフのようだった。
「十年前、あたしたち家族はアメリカ旅行をしていたの。何となく楽しかったのを、かすかに覚えてる。でも、ある日、あたしたちは交通事故に巻き込まれた。走行中のトラックが横転して、近くを歩いていたあたしたちに転がってきたの。その事故であたしのお父さんやお母さん、三つ上のお姉ちゃんは死んじゃった。トラックの運転手も即死だったって」
 重い話だ。それを簡単に口に出来るということは、すでにこいつの中では乗り越えたことか、俺のように記憶がないのだろう。いずれにせよ、こいつもそれなりに辛い過去を背負っているってことか。
「事故の後、あたしはマスミに引き取られた。最初、あたしは何もわからないうちに暮らしていたみたい。でも、そのうちに『意識』がはっきりしてきて、いろいろなことが理解できるようになった。その時、マスミが話してくれたの。実はその事故、普通の事故じゃなかったって」
 俺はいったん話を切ってもらい、無くなった飲み物を補充することにした。
「何がいい?」
「んーとね、熱いアップルティーある?」
 いつもとまったくかわらない、陽気な声でリューカが答える。
 俺はそれに何となく、ほっとしながら台所へ行った。

「十年前、マスミは刀月に会いにアメリカに行った。その時、すでに刀月とアーヴィングのお父さんとの仲は、かなり険悪になっていたんだって。そして刀月は妙な思想にかぶれていたらしいの。なんかね、『初源の光』を呼び込むとか何とかいう魔術儀式にはまってて、そのために『生け贄』を必要としていたのね。最初は動物を使っていたらしいんだけど、人間の方が効率がいいからって、人間に手を出しそうになってたの。そこを、マスミが止めに入ったの」
 そして、争いになったらしい。だが、マスミさんの目的はあくまで刀月を諫めること。それ故、本気の攻撃とはならず、そのために最初は廃墟で行われていた戦いが、刀月の逃走に伴って、外に出てしまうことになった。
 そしてその戦いに巻き込まれる形で事故が起こったのだという。
「マスミは刀月を追うことをやめ、負傷者の救出に当たった。でも、生き残っていたのはあたしだけ。しかも瀕死だった。マスミはあたしを構成する言凝を読みとり、なんとか復元した。……お父さんやお母さん、お姉ちゃんや運転手さんは無理だった。さすがのマスミでも、死んだ人の蘇生は無理だって」
 軽い衝撃が頭の中に起こった。マスミさんは何でも出来るような気がしていたけど、やっぱり神様じゃなかったんだ。


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