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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第6回 第一章・五
 俺は思わず女性の顔に見入った。美形、という以上の何かが、彼女にはある。そんな風に思わせる魅力をたたえている。
「離せ!」
 男は女性の手を振りほどこうとしている。しかし容易にかなわない。それどころか、女性の方はぴくりとも動いていない。
 俺は改めて彼女を見た。コートのせいで体つきはよくわからないけど、そんなに力持ちという印象は受けない。
 すると不意に彼女が口元に笑みを浮かべた。心臓が爆発したみたいに鳴った。俺に向けられたものじゃないかも知れないけど、見ているだけで胸が高鳴る、そんな笑顔ってあるよね?
「少年、もう大丈夫じゃ」
 変な物言いで言うと、彼女はそのままの姿勢で男を突き放した。二十歩ぐらいよろけた男は、そのままバランスをくずして尻餅をついた。
 なんか、声もいいな。ちょっとハスキーだけど、凛とした響きがあって清々しさもある。
「ちっ、また邪魔者か。しょうがねえ、そこの小娘みたいにおとなしくしていてもらおうか」
 そう言うと、男はまた胸甲から金属板をとる、というより抜き取った。そして投げつけようと構えた瞬間。
「『動くな』」
 静かに、はっきりと彼女は言った。
 相手に、「動くな」と言ったことで動きを止められるなら、これほど楽なことはない。今だって、こんなややこしいことになどならなかっただろう。俺はそう思いながら男を見た。
「……。あれ?」
 見ると、金属板を構えたそのままで、男は動きを止めていた。その表情は、びっくりしたように目を見開いたままで凍りついている。いや、かすかに目元と口元が痙攣のようにヒクついているけど。
「て、てめえ、まさか」
 かろうじて絞り出したような声で、男は呻く。何が起きたか、俺にはわからないけど、男にはわかったのか。
「動いて良いぞ」
 彼女が笑みとともにそう漏らすと、男がバランスを崩した「やじろべえ」みたいに、大きく右に傾いて片膝をついた。
「ほう。符を打とうと蓄勁したところで止められたからな、そのまま解くと肘に悪影響が出ると見て、余分な力を膝に逃がしたか」
 何を言っているのかさっぱりわからないが、男はただ沈黙している。それは肯定しているようにも見えた。
「てめえ、『言霊使い』か。なら、それを使わせねえだけだ!」
 身を沈めた体勢から、男がダッシュをかけた。「あ」と声を上げるより早く、男は彼女に接近していた。そしてその手が彼女を捉えようとした。しかし。
「いい動きをするのう」
 男の手はあっさりと彼女に掴まれていた。
 男は驚愕の表情を浮かべている。
「そ、そんな。普通の人間になら、今の動きは見えないはずなのに」


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