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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第59回 第六章・三
 高校生が一人、行方不明になったという話は、もうすっかり街中に知れ渡っていた。しかも誰が行方不明になったかわからないのだから(さすがに情報規制が厳しい)、話に尾ひれが随分ついていた。いわく「某国工作員が拉致した」、いわく「人妻と駆け落ちしようとしたら、相手のヤクザな男が現れて、どこかへ連れて行かれた」。たったの半日で、よくぞここまで話が膨れあがったものだと、思わず呆れるほどだ。
 それはともかく、そんな事情だから、と、WEらんどから電話があり、今日のバイトは急遽休みとなった。何か間違いでもあると、店のイメージダウンに繋がるからだ、と店長は言っていたけど、これはあの人なりのジョークだ。俺を気づかってくれているのが、電話越しからでもわかる。そもそもこの人は、うちが旅館だった頃に板場だった人だ。旅館が廃業になったのを機に独立する際、親父に世話になったとかで、俺には何かとよくしてくれる。まだ中学生だった俺があそこでバイトできるようになったのも、店長のおかげだ。
 そんなわけで、今日はバイトは無理だ。仕方がないので、何をして時間を潰そうかと考えていると、来客があった。
「やほ! 遊びに来たよ、アーヴィング」
「何だ、リューカか」
 ドアを開け、来訪者を確認した俺が、つまらなそうな声を出したからだろう。リューカがむくれた。
「なによう。午後から暇になっただろうから、って思って、遊びに来てあげたのにぃ!」
「そうか。それはご苦労。だが、生憎こちらはお前とじゃれるほどの暇な時間は持ち合わせてないんだ」
 そう言ってドアを閉めようとすると、リューカがドアの隙間に足を挟んだ。
「あー! あー! うそうそ! あたしが暇だから、アーヴィングに遊んで欲しいの!」
 慌てたような声で、早口に言うリューカ。
 ほんとにこいつ、異次元から来た生物なんじゃないか? なんか、面白すぎるぞ。
 結局、リューカを招き入れることにした。退屈しそうにないからな。

 というわけで、俺はリューカと対戦ゲームなんぞをしているのだが。
「おりゃ! てりゃ! ちょわわわわわわぁぁぁぁ!」
「少しは静かにできんのか、お前は」
 コントローラー片手に、やたらと気合いをかけるリューカに、俺は呆れていた。
 ゲームの腕は、まあ、どうでもいい。俺も得意な方じゃないから、初心者らしいリューカとは、いい勝負になっている。コンボこそ出ないものの、それなりに小技の応酬が続き、時折まぐれで出る大技のおかげで一発逆転の息詰まる展開が楽しめる。
 ただ、やたらと叫ぶのは勘弁して欲しい。途中何度か指摘したのだが、一向に改まらない。
 まあ、いいか。にぎやかだと、気も紛れるしな。
 そんな感じで、一時間もしただろうか。とりあえず、ゲームは終わりにして、俺とリューカは紅茶を飲みながら、なんということのない話をしていた。
 俺に初めて会った時、マスミさんに頼んで俺に対して言霊の実践演習をしたこととか、言凝の修業はよくわからない事だらけだとか、そんな雑談だ。
「俺に対して実践、ねえ」
「うん。普通に声かけようって思ったんだけど、せっかくだから、初対面のあたしに言霊を使った『挨拶』をさせてって、マスミに頼んだの」
 要は、実験台だったっていうことか。結局は失敗に終わったが。この分じゃ、言凝の修業とかいうのも、うまくいっていないんだろうなあ。
「そういえば、お前、マスミさんと世界のあっちこっちを回ってるんだよな? その辺の話とか、聞いてみたいな」
「へ? 別に面白くも何ともないよ」
 と、リューカは、しれっと言ってのける。
「例えば、ある国のトップになっている男が、実は単なるお飾りに過ぎない、とか、ある国と、敵対する別の国のテロ組織は、実は裏で繋がってて、組織のリーダーが逃げているっていうことにして、世界各国に監視網を敷いたり、同盟国にお金や人員を出させる口実を設けているとか。面白くないでしょ?」
 本当にうんざりしたような表情でリューカは言う。
「……それはそれで面白そうだが、多分、俺みたいな普通の人間は、突っ込んで知っちゃいけないような気がするから、パス。ていうか、そんなキナ臭い話じゃなくて、外国の街の様子とかが聞きたいんだが?」
 外国ならではの、珍しい風習とかあるだろうし。
「うーん」
 と、リューカは考え込む。
「正直言って、よくわからないなあ。日本の風習をよく知らないから、何が特別か、とかは。あ、でも、ある国では夜、ミニスカートを穿いていたら商売女と思われても仕方ないとか、ある国では、スーツ姿をしていたら金持ちに思われて、十歩歩く毎に商売女から声をかけられるとか、そういうのなら」
 やべ、こいつ中身はオヤジだ。ていうか、何故「商売女」の話ばかり?
「すまん、リューカ、変なこと聞くが、お前、何でそういう話に詳しいんだ?」


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