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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第57回 第六章・一
 金曜日。
 一時限目は臨時で自習となった。しかも全校で。
 何が起きたのか、よくわからないでいると、修平がどこからか、情報を仕入れてきた。
「一組にさ、嶋野さとみ、てコがいるらしいんだけどな、昨日から行方不明なんだと」
「な!」
 俺は一声あげて息が止まりそうになった。
 隣に来ていた景が訝しそうに俺を見る。
「どうした? 知り合いか?」
「い、いや。し、知らない」
 それだけ言うのがやっとだ。
 ほんの少しだけ、修平も俺の方を見て首を傾げたが、情報を話したいという欲求の方が勝ったのか、すぐに続きを話し始めた。
「まだ詳しいことはわかんねえんだけどよ、どうも、昨日の放課後から消息がわからないらしいぜ。目撃者の話じゃあ、学校を出てから、駅とは反対の方向に歩いていったらしいし、家にも帰った痕跡がなかったらしい」
「しかし、それだと商店街やモール街へ行ったかも知れんじゃないか。正確にはどの時点から足取りが掴めないんだ?」
 景が、冷静な声で問う。
「だからさ、その辺の詳しい事情はまだわかんねえ。ただ、クラスメートの話じゃ、昨日はいつもの彼女とは違ったらしいから、自分から失踪したんじゃないかって、一組の連中は話してる」
「ふむ」
 と、景が顎に手をやる。
「何らかの悩み、あるいは決意を抱いていれば、自然と平素の行動とは違ったところが出てきてもおかしくはない。だが」
「何だよ、気になることでもあるのか?」
 尋ねる修平に景が、目を細め、溜息をつく。
「……いや。情報が少なすぎる。自発的な失踪なら金銭などの事前の準備があるだろうし、第三者が介在していれば、しばらく前から彼女の周辺には、なんらかの不自然な動きが見て取れただろう。とにかく、今の話からでは、何がどう、とは推察できないな。ただ」
「ただ?」
 と、修平が首を傾げる。
「全校単位で自習にしたということは、何らかの『事件性』があったのかもな。自発的な失踪つまり家出ならば、ここまで大事(おおごと)にはしないはずだ、学校のメンツということから考えてもね」
 事件、という言葉で、俺の心臓が凍りついたように感じた。
 俺は立ち上がり、よろけるようにして歩き出した。
「どうした、アーヴィング?」
 修平の声に、俺はただ「トイレへ行く」とだけ答える。
「おい、顔真っ青だぞ、大丈夫か?」
 心配して駆け寄ろうとする修平を制し、俺は頷いてから教室を出た。
 そして壁に手をつくようにして、トイレまで行くと、個室に転がり込み、施錠してから俺は吐いた。
 便器の中へ、朝食べたもの全てを。
 吐く物がなくなると、今度は胃液を吐いた。焼けるような傷みが喉を襲うが、かまわず俺は吐き続ける。
 やがて、胃液すらも出なくなった頃、俺はようやく落ち着いた。そして落ち着くと、今度は不安が、はっきりとした形となって湧き起こってきた。


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