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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第54回 第五章・十二
 お前も薄々とは勘づいていると思うが、哲弥もヴァージニアも儂の弟子であった。この辺りの話はややこしくなるが、大事な話なのでな、聞いてくれ。
 まず初めに言っておかねばならぬ。哲弥もヴァージニアも、いわゆる孤児じゃ。ヴァージニアは儂がイギリスに行った折りに、素質があると思って引き取った娘じゃ。そして哲弥も、日本へ帰ってきた時に素質を感じて引き取ったのじゃ。
 ショックかも知れんな。じゃが、話を続けるぞ?
 哲弥は、どことなくのんびりしたところがあってな。儂と出会った時、哲弥は九歳であったが、なかなか鷹揚でな、将来は大物になるか、本物のうつけ者かといった風であった。 ヴァージニアじゃが、こちらはしっかり者でな、哲弥と同い年であったが、とてもそうは思えなかった。どう見てもヴァージニアの方が年上に見えたものじゃ。
 およそ見当はつくであろうが、一方的にヴァージニアが哲弥の世話を焼くといった感じであったな。見ておって微笑ましかったぞ。
 そう言えば、こんなことがあったの。
 確か二人を引き取って、一年目の春先のことであった。二人して山へと散歩に行った帰り道、どうやら迷子になったらしいのじゃ。まだ、言凝はおろか言霊の基礎も出来ておらなんだ時じゃ、咒術によって窮地を脱することなど出来ぬ。その時、二人はどうしておったと思う? ……わからぬか? そうであろうなあ。儂も二人を見つけた時、正直、我が目を疑ったぞ。
 なんと、二人は野宿をしようとしておったのじゃ。哲弥は悠然と構えて、しかもどこで仕入れておったのか、サバイバルの知識を活用していての。ヴァージニアは哲弥の指示に従って、食べられそうな木の実などを集めておった。千里眼で見つけ、神足通で駆けつけた時、哲弥は「先生が見つけてくれると思ったから、安心して野宿の覚悟が出来た」と、訳のわからんことをぬかしておったわ。
 しかも二人とも、どこか楽しそうでの。はっきり言って、儂は叱るのも忘れて呆れたものじゃ。
 このように、浮世離れしたところのある二人じゃが、常識だけはわきまえておった。いや、常識と言うよりは「人として大事なこと」と言った方がよいか。これだけは儂は徹底したからのう。いかに「傑物」だの「逸材」だのと呼ばれようとも、人として大事なことをわきまえておらなんだら、そやつはただの阿呆(あほう)じゃ。
 長ずるに従い、哲弥とヴァージニアがお互い好きあうようになってな。結婚したいと言ってきた。儂としては、異存はなかったし、むしろ喜ばしいことであったからの。
 ところで儂は「占い師」として社会的に生計を立てておる。「世界」に影響を及ぼそうと思ったら、やはりそれなりに「地位」というものは必要なのじゃ。そこで二人にもそれなりの社会的な「顔」が必要じゃと思った。そこで、結婚を機に二人に社会的な「顔」、いわば偽の経歴をあつらえることにした。そのため、以前、相談に乗って難題を解決したことのある、皇の家に話をして哲弥を養子にしてもらった。皇家は名門でな、かなり高貴な家柄じゃ。もっとも、この街にいるのは分家筋の、そのまた末端じゃがな。そして養子縁組をしたのち、ヴァージニアを妻に娶らせたのじゃ。ちなみに和穂は皇の実子じゃ。それゆえ、哲弥とは義理の兄妹ということになる。
 ところで、哲弥を引き取ってから五年ほど経った後に弟子にとった者がおる。それが、刀月じゃ。こやつは孤児ではなく、秘教的古神道を伝える紅久那家の三男坊であった。どこで儂のことを知ったものか、弟子にしてくれと言ってきてな。実に熱意に溢れた少年であった。
「今の、この世界は混迷を極めております! これを救い、世を良き方へ導くには、道徳書や倫理観などでは生ぬるい! もはや神力をもって世界を矯正するほか、道はないと考える所存であります!」
 と、まあ、こんなことを語っておった。正直、このような過激な考えは儂は好かんのじゃが、今の世の人間にもっとも足らぬものは、このような「赤誠」じゃ。儂は、それに賭ける意味で刀月を弟子にとった。
 ところで、先日お前にも話したが、儂が何かを教えるためには弟子にとる、という形をとらねばならん。それは、道統を護るという意味において重要なことじゃ。つまり、「弟子にとる」と儂が「宣言」し、相手が「それ」を認めることで相手を構成する言凝に干渉でき、修業が進みやすくなるようにするわけじゃ。逆を言えば儂が宣言しない、あるいは相手が認めなければ、いかに修業をしようと、ものにはならぬ。言凝とは、それだけデリケートなものなのじゃ。
 さて、哲弥と刀月じゃが、実に好対照であった。どちらかというとのんびりとして穏やかな哲弥に対し、烈しいところのある刀月。不思議なことじゃが、この二人は妙にウマがあっておった。実力的にも、刀月は紅久那の家にいた頃からの修業で素地はできていたから、先に修業を始めておった哲弥とも、比較的、近い境涯じゃったしな。修業の上でもよいライバルであった。修業の経験のない孤児だった者と、古神道の秘儀を伝える家に生まれたエリート、今から思えば、お互い、自分にないところを相手に見ることによって、尊敬の念を覚えていたのかも知れん。年齢も近かったしの。
 二人は、それぞれの考え方で世を憂いておった。哲弥は世界に「潤い」がないが故に人心が荒廃すると考え、刀月は「自由放任」に歯止めが利かない故に世が荒廃すると考えた。二人のこの思想は、ともすれば国粋主義に陥りかねない。己の信念と奉ずる「業(わざ)」こそが世を救えると、思いこむ恐れがあるからな。じゃが、それだけ二人は、真剣に人間世界のことを思っておった。
 しばらくは二人はお互いに意見を戦わせ、いかにすれば世をよくできるか、語り合っておったようじゃ。じゃが、いつの間にか二人の考え方に、乖離が生まれていった。そして刀月は危険な方向へと傾いていったのじゃ。
 すなわち、「言凝の力をもって、世界を編み直す」。
 これが如何に危険なことであるのか、わずかながらでも言凝に触れた主ならば、およその見当はつくであろ?
 言凝で組み直されたモノは、もはや元のものとは別物じゃ。そして大前提として、一旦世界を「泥海」にせねばならぬ。ああ、泥海というのはものの喩えじゃ。実際には「言凝のスープ」とでも呼ぶべき状態じゃな。世界を構成する言凝をほどき、都合の良いように編み直した上で、組む。言うなれば、世界の創生をしようと企んだのじゃな。
 もちろん、哲弥はこれに反対した。この頃、儂はこの国におらなんだでな、詳細についてはよくわからん。じゃが、時折ヴァージニアから手紙をもらったり、儂の識神が取得してくる情報などから、哲弥と刀月の仲がかなり険悪になったことが伺えた。
 そして、ついに「あの日」が来てしまったのじゃ……。


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